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会員 安芸洋一
中国習近平国家主席が提唱し、2015年内に運営を開始するとされるAIIB(Asian Infrastructure Investment Bank, アジアインフラ投資銀行)は、同年3月末の時点で57ヵ国からの参加意思表明があった。その構成をみると、アジア太平洋地域25か国(ASEAN10ヵ国、韓国、オーストラリアを含む)、中東10か国の他ヨーロッパからも英国、フランス、ドイツ、イタリア、ロシアを含む20か国が意思表明を行い、創設メンバーとして参加することとなった(他の2か国はブラジルと南アフリカ)。一方、主要国の中では日本、米国、カナダが参加しておらず、日本の参加の是非をめぐって盛んな議論が行われてきている。
わが国の参加推進派のおもな意見としては、次のようなものがある。
(1) 今後の世界経済成長の核と見込まれるアジア地域のネックはインフラ不足であり、AIIBはその解消に貢献する機関として設立されるのであるから、アジアの経済大国として日本は応分の貢献を行うベきである。
(2) 米国が参加しないからといって、日本が米国に遠慮する必要はない。
(3) 今後インフラ事業を実施するに際し、施工企業は入札で選ばれるだろうが、AIIBに参加しないと入札に参加できず、日本の企業が膨大なビジネスチャンスを失い兼ねない(「バスに乗り遅れるな。」 なお、ADBアジア開発銀行資料によれば、同行設立の1966年から2014年末までの間、同行加盟国間の競争入札で日本企業が落札した契約の比率は件数で2.7%、金額で3.8%であり、最大の出資者である日本の出資比率15.7%と比べても低い。日本企業の質の高さを求める国は多いが、価格競争では苦戦するケースが多い。)
(4) 日本はこの分野で豊富な経験、知識を有しているから、参加した上で他の先進国と協力して「内からの」改革を推進すべきである。
一方、参加反対派(あるいは慎重派)は、新銀行の運営統治(ガバナンス)が脆弱であり、透明性に問題があることを中心に、概ね次のような主張を行っている。
(1) 新興銀行として融資の方針をどうするのか、案件審査能力をどのようにつけていくのか等の基本方針がはっきりしない。「内からの」改革を唱える意見があるが、出資比率(発言権)の関係もあって、最大の出資者となる中国側が耳を貸すかどうか疑問である。
(2) その状況によっては融資の返済が困難になったり、環境破壊、社会的弱者の困窮が増大したりするという事態が生じかねない。
(3) 世界銀行、アジア開発銀行(ADB)等既存の国際金融機関では当然のこととされる理事会の常設がなく、選出された理事は各国にとどまって業務を行うことになりそうであるが、この体制で参加各国の意思を十分に反映した運営が可能かどうか甚だ疑問である。理事会が十分に機能しないと、事務局が置かれる北京の意向が必要以上に運営に反映され、公正な運営が阻害される可能性がある(注:中国側は、理事会常設の経費を削減し、その分貸出金利の低下につなげようとしているとの報道もある)。
(4) ガバナンスが確立されないと、日本の出資金が(日本に限らずいずれの国の出資金も)中国の意向を実現させるために使用される(つまり、日本の貴重な資金が中国に利用されてしまう)可能性がある。