NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

アジアインフラ投資銀行と日本

筆者は後者、つまり日本はAIIBのガバナンス確立の見通しがつくまで参加すべきでないという考えであるが、その議論の前に、中国と日本の対外援助の歴史を振り返り、それぞれの特徴を対比させてみることとしたい。

日本は世銀などからの支援を受けた戦後復興期を経て、1954年コロンボプランに参加、この年がODA(政府開発援助)供与スタートの年とされる。その後日本のODA額は確実に増え、1989年には米国を抜いて世界一のレベルに達し、それが2000年まで10年以上続いた。この間、円借款を中心とした途上国のインフラ整備に重点を置き、主に東南アジア諸国のその後の経済発展に弾みをつけた貢献は国際的にも広く評価されている。

ただ、円借款に関しては、プロジェクト実施に当たって必要となる資機材、土木工事実施のための役務をどのように調達するかという問題があった。1960年代後半に始まったODA円借款の当初の調達はいわゆるひもつき援助(タイドローン)で、資機材、役務とも日本から調達することが求められた。この方式については「日本は援助を自国の輸出に使っている」との批判が根強くあり、国際的なアンタイド化の流れの中で、1970年代後半から完全アンタイドに移行、公正な国際競争入札実施を条件とすることにより借入れ国側が「良いものを安く」調達できるアンタイド方式が基本となった。

もう一点、円借款に対する批判として「事業実施の手続きに時間がかかりすぎる」というものがあった。もともと借款事業を実施する手続きとして、当該国の経済情勢、優先セクターの調査から始まり、個別事業の選定、フィージビリティの確認、政府間の合意、貸付契約の締結、施工業者等の選定(調達)、工事管理、評価等のステップがあり、更に日本の場合(世界銀行、ADB等既存国際機関も同様)、それぞれの事業の環境、社会への影響を確認するための調査等が求められる。これらの要因をすべて確認してから最終決定となるため、どうしても時間がかかるケースが多くなるが、近年時間短縮のための様々な努力が行われている。

一方、中国は他のアジア諸国と同様、援助受取国として1980年から日本の円借款を活用して港湾、道路、鉄道、発電所等の基本的なインフラを整備し、その後の急速な経済発展につなげた歴史がある。援助供与国としては、建国(1949年)以来アフリカその他への援助を行ってきているが、OECD のメンバーではないため、OECD 開発援助委員会(DAC)で規定される伝統的援助供与国が実施するODA とは異質な援助を行っている。

中国の対外援助については、これまでも様々な論評が行われているが、それらを列挙すると、以下のようなものがある。

(1)  アジアに限らず、アフリカ、中東、中南米にも広く関心を示している

(2)  DACに加盟していないため、援助の詳細にわたる情報が少ない

(3)  世界銀行、ADB、日本等と比べ、意思決定が早く事業実施も早い。

(4)  内政不干渉を謳っているため、相手国に例えば人権問題が存在しても融資を行う。

いわゆる西側諸国は人権問題や軍事独裁、核実験を行う等の状況では援助を停止することがあるが、その真空地帯に中国が支援するというケースもある。

(5)  融資対象の事業を行う際、機材のみならず関係する人員、スタッフも中国から送り込むため、現地での雇用機会が生じず、技術移転も行われない。この結果、プロジェクトのメインテナンスに支障を生ずることがある。

この点、日本は「相手国の自助努力を支援する」という立場をとっており、現地側と協働してプロジェクトを実施するため、技術移転がそこで行われる。有名な例として1960年代後半のインドネシア東ジャワ、ブランタス川流域開発事業がある。日本はこの地域の開発のためにダム建設等のODA を供与したが、現場で訓練を受けたインドネシア人技術者が、その後の国内他地域の同種プロジェクトで大いに活躍したといわれる。

(6)  事業実施に伴う環境問題、社会への影響(例えばプロジェクト実施のために移転を余儀なくされる住民への補償)等に対する配慮が十分でない

(7)  プロジェクトの品質が十分でないケースがある(道路が早く傷む等)

(8)  援助プロジェクトを実施するための資機材、役務は「良いものを安く」入手するため、国際競争入札により調達するのが国際的な基準であるが、公正かつ透明性を備えた入札を行うにはしっかりしたルールがあり、借入国の事業実施者がこれを遂行する十分な能力をそなえていること、かつ融資する側がこれをルールに従って管理することが必要である。援助プロジェクトの入札については、多額の資金が動くこともあって援助受取側の途上国で汚職が生じることがある。融資する側は、このような事態が生じないよう管理する必要があるが、政府部内の汚職追及に追われる中国にこのような管理がどの程度可能かという指摘もある。

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2015年5月31日 up date

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