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国際問題コラム「世界の鼓動」

コップ半分の水 SBYの時代

そこからよくここまで持ち直したものだと思う。インドネシア国家警察は、テロ組織を解体させるため、テロ組織の拠点急襲、マネー・ロンダリング対策として金融監視強化、思想教育によるテロリストの脱過激化等に取り組んだ。ジャマ―・イスラミアの大物幹部ヌルディン・トップらの摘発・殺害(2009年9月)以来、大規模なテロは起きていない。

治安回復とともに、大きな混乱なく3回にわたって大統領直接選挙を実施したことは民主化の進展、政治の安定を海外に印象付けた。この国の潜在力が評価されて海外からの投資も拡大し、経済成長も軌道にのった。

ユドヨノとオバマ国際社会におけるインドネシア再評価を示す典型的な一冊が、2012年にシンガポール東南アジア研究所から出版された「Indonesia Rising(台頭するインドネシア)」である。東南アジア史の大家アンソニー・リード教授が編者である同書の序言で、ギャレス・エヴァンス元オーストラリア外務大臣は、インドネシア台頭のプラス要因として、1)地方分権を含め民主主義が進展し国の団結が強まっている、2)インフラ不整備や腐敗の問題はあるが経済は成長している、3)寛容なイスラム教徒が主流であることは他のイスラム諸国の手本になる、4)国力の上昇に伴いこれに見合った活躍を国際舞台の場で見せ始めている、と主張している。(写真:ユドヨノとオバマ「Indonesia Rising」表紙)

さる9月29日、立命館大学はユドヨノ氏に名誉博士号を贈ったが、その功績として、インドネシアの経済成長、社会の安定と発展に尽力したことを挙げている。これもエヴァンス元外相の賛辞と重なる。

上記に見られる通り、ユドヨノ政権は国際社会が抱くインドネシア・イメージを、「イスラム・テロが続発する危険な国」から「穏健なイスラム寛容派によって民主主義が定着した国」へと改善させるパブリック・ディプロマシーに成功したといえよう。「アラブの春」以降、民主化が挫折し、混乱が続く中東情勢との対比で、「イスラムと民主主義は両立しうる」というテーゼを体現するイスラム諸国中の「優等生」としてインドネシアが、そしてその指導者としてユドヨノ氏が、評価されているのである。

ただしこの評価は不動のものではない。今後の推移次第でオセロゲームのように白が黒に変わることも起こりうる。

ユドヨノ政権が積み残した宿題の一つが、「近年インドネシア国内において宗教少数派の人権が侵害されているのではないか」という疑念が内外から出てきていることである。

たとえば米国国務省による「各国の宗教の自由に関する報告」(2011年)は、「インドネシア憲法は宗教の自由を保護しているが、一部法律、規則は宗教の自由を制限している」として、「国が認めない宗教信者は結婚、出生の住民登録並びに身分証の発行において公的差別が行われている」と指摘している。また同報告書は、一部強硬なイスラム教徒が宗教多元主義に反対し、他の宗教グループやイスラム異端派とみなすグループに攻撃を加えていることに憂慮を示している。

「ジャカルタ・ポスト」紙(2014年9月25日付)において、シドニー大学ベンジャミン・ディビス開発調整員は、「インドネシアは〔パブリック・ディプロマシー競争〕に負けつつあるのではないか?」という論考を寄せている。寄稿者は、「インドネシア政府の文化交流政策はバラバラ、かつ一部エリートだけの交流に終わっているがために効果をあげておらず、海外イメージを根底から改善させるには国民レベルの草の根交流、文化的多様性に根差した交流強化が必要」と主張する。

そしてその末尾は、「退任するユドヨノ大統領は、インドネシアのイメージを『民主的なイスラム教徒の国』という肯定的イメージを固めることに尽力した。しかし未来への投資たるパブリック・ディプロマシー国際競争を闘うためには十分とは言えない。」と結んでいる。

「コップ半分しか水は入っていない」という見方だ。

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2014年10月15日 up date

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