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尖閣の領有権については、日中間に尖閣についての棚上げ論があった、と言われている点について正しておきたい。
結論から言えば、72年の日中国交正常化での田中角栄・周恩来会談と、78年の鄧小平副総理・福田赳夫首相の会談において、「今は解決できないが、問題は存在するので、後で協議しよう」という共通の認識があったというのが棚上げ論だが、このような合意は、公開された外交文書を仔細に見ても、どこにも存在しない。
繰り返しになるが、中国側の主張に合わせて尖閣の問題について日本が棚上げに合意したということは全くないし、棚上げ論は存在しない。
尖閣の問題は、法的、歴史的な視野で見る必要があると思う。日本は、尖閣が無人島だということを十年近くにわたり何度も現地調査をして調べた結果、国家の意思として領有の閣議決定をしている(1895年1月)。それは先占の法理と呼ばれており、日清戦争の終結の少し前のことである。
さらに戦前は、日本人が、多い時で200人ぐらい住んでいて、鰹節工場を営んでいたという事実がある。
中国も台湾も、尖閣は自分たちのものだと言い出したのは、日本の領有後、76年を経た1971年のことであり、国連機関がこの海域に石油資源が埋蔵されていると公表してからだ。つまり、76年間にわたり、異議申立てがなかったというのが事実である。
もう一つ、棚上げ論を言うのであれば、中国自身がこれに矛盾することをしている。92年に中国は突如、国内法「領海及び隣接区域法」を制定して、尖閣を中国の領土に編入したが、中国が日本に対して尖閣の棚上げ論を言うのであれば、自分が作った「領海法」を改正するなり、廃棄してから言うべきだろう。
この観点からすれば、東シナ海の尖閣の問題と、今、問題化している南シナ海の領有権問題は少し違う。南シナ海で今、中国が領土拡張的なことをしている。
直接的にはベトナム・フィリピンと対立しているが、中国の主張は1947年、蒋介石政権が台湾に来る前に作った文書を根拠にしている。
そこに書かれた「九点線」によれば、南シナ海の九割ぐらいは中国のものだという。しかし、これは当時の蒋介石政権が作った文書であって、近代法の根拠に基づくものではない。そうしたものを今の中華人民共和国は根拠にしている。
さらに最近、中国は、国際会議でも非常に独善的な一方的発言をしている。今年五月末にシンガポールで開かれたIISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で、中国側の代表を務めた中国軍副参謀長は、「南シナ海の島は、2,000年以上前に、中国が発見した」と発言している。これは中国人の中華思想的な発想で、全く根拠を持たないものである。