NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

最近の台湾政局とこれからの中台関係

日米コミュニケの意味

この尖閣の問題について、アメリカとの関係についてみれば、今年五月、オバマ大統領が来日した。この時、日米間で発表したコミュニケは評価できると思う。共同記者会見の時に、オバマは尖閣について「日米安保条約の適用範囲である」と明言しただけではなくて、コミュニケの中にそれをはっきりと書き込んだ。

「日米安保条約の適用範囲」というのは、これまでアメリカが時折使う言葉ではあったが、大統領自身が表明し、それをコミュニケの中に書き込んだことの意味は非常に大きいと思う。

アメリカは単に「日米安保条約の適用範囲」と言うだけではなくて、「尖閣は日本の領有」だと言えないかという議論はある。アメリカが世界中の主権の問題について、立場を明示するかしないかは場合による。おそらく今のアメリカがそこまで言うということは難しいだろう。ただ、コミュニケの中で「日米安保条約の適用範囲だ」と明言したことは、中国に対しては非常に明白なメッセージになっていると思う。

オバマ政権の中東、ウクライナ等における政策は、実効を伴わない優柔不断なものと批判されることが多く、全くそのとおりだと思われるが、前回の日本訪問は例外的に評価できるものであったと思う。

台湾を懐柔したい中国の思惑

中国の今後の台湾政策は、基本的には、できるだけ非軍事の貿易・経済関係を使いながら、軟土深掘で台湾に対応していくのだろうが、これ以外には、中国は台湾に対する有効な手段を持っていない。もしも、強硬に軍事力を行使すれば、米国の反発は極めて大きいだろう。前述した96年の台湾海峡危機を見れば分かる。

その後、民進党・陳水扁が選ばれた選挙の時もそうだった。当時、中国の朱鎔基首相が、「台湾が独立する際には未来はない」という非常に強い言い方をした。中国がそうした恫喝するような言い方をすると、台湾の選挙結果は、中国に批判的な人が選ばれる傾向がある。よって中国は台湾に強硬な措置が取りにくいというジレンマを抱えている。

興味深かったのは、学生運動が終わった後の今年5月、中国寄りの親民党・宋楚瑜主席が、習近平主席と会談した。

その時、習近平は台湾の問題について、「これからとろ火でゆっくりと混ぜながら、一緒に豆のスープを作りましょう。そうすると、そのうち飲めるようになるでしょう」と言っている。中国としては、少しずつ台湾を懐柔したい、という意思表示だろう。

将来の選択は台湾人の手に

ここで、今後の台湾の問題について触れてみたい。

今年11月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の総会が上海で開かれるが、馬英九総統は、「自分は出てもいい」と読売新聞のインタビューに答えている。本当に馬英九はAPECの会合に行くのか、と若干、議論になっているが、その可能性は相当低いだろう。

というのは「台湾は中国の一部」との立場をとる中国としては、APECのような国際的な会議を、台湾のリーダーと会う場に使う必要はない。中国は、時と場所を選ぶだろう。中国側としては、学生運動でサービス貿易協定が頓挫しているし、馬英九が訪中するならば「何か土産を」と考えるだろう。しかし、今の台湾には、中国への土産になるようなものは見当たらない。

また、馬総統が今の台湾の状況で上海に行けば、台湾で大きなデモが起きる可能性がある。そんな危険を冒してまで、重要な地方選挙を11月末に控えている馬英九が、APECに参加することがあるだろうか。

では、統一でも独立でもない現状維持が台湾の民意だとすれば、この状態はいつまで続くのだろうか。いつまで続くかは、台湾の人でも分からない。要は、我慢比べというところだろう。

今の中国の抱えている問題は極めて大きい。私が若いころは、中国は豊かになれば、対外的に開かれてきて、国際的に協調的な姿勢になって軟着陸するのではないか、と言われていた。

しかし、今の中国では、その軟着陸が極めて難しい状況になっている。下手をして緩めると、今の体制を維持しているタガが外れてしまう可能性があるからだ。

したがって、習近平政権になって以降の動きは、締め付け一方である。人権に関しても、締め付けるだけである。締め付けては緩め、緩めては締める、という天安門事件以前には見られた状況は姿を消している。

中国の国内的な要因もあって、中国共産党がいつまで安定的であるのか分からない状況にある。よって、台湾の人たちにとっては今の段階で中国に何かを仕掛けることは難しいかもしれないが、現状を維持しながら、状況が変わった時に2,300万人の台湾人が台湾の行方を選択・決定することになるのではないかと思われる。いずれにせよ当分の間、現状維持が続くこととなろう。

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2014年9月18日 up date

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