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国際問題コラム「世界の鼓動」

スコットランド独立否決を考える

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

スコットランドの独立を問う国民投票は結局、「独立反対」が55.3%、「賛成」が44.7%ということで、独立は否決されましたね。票数で言うと賛成がざっと160万、反対が200万だったからその差はざっと40万(正確には383,937)ということになったわけです。この結果は、私などには僅差と見えたのですが、投票翌日(9月19日)のGuardianは、二者択一の投票で10.6ポイントの差は「決定的」(decisive)だと言っています。

またGuardianの記事によると、「独立反対」の8割以上が9月よりはるか前に態度を決めており、7割以上が1年以上も前に決めていた。それに対して独立賛成の中で9月前に決めていた人は61%、「数日前に態度を決めた」という人の3分の2が独立賛成だった。つまり独立反対派のほうが確信が強かったということですね。

で、独立反対の二人に一人がその理由として、独立すると「ポンドが使えるのかどうか分からない」、「EUに加盟できるのかどうかも分からない」、「失業が増えるのでは?」というのを挙げており、残りの半分は、UKに属することへのこだわりがあるのと、「これからさらなる分権が期待できるのだから、それいいのでは?」と言っている。つまり現実的選択ということです。

同じくGuardianなのですが、投票の2日前(9月16日)の号にジョージ・モンビオット(George Monbiot)というジャーナリストが “How the media shafted the people of Scotland“(メディアは如何にスコットランド国民を痛めつけたか)というタイトルのエッセイを寄稿しています。今回の運動期間中におけるメディア報道について書いているのですが、

スコットランドの国民投票に関連しておそらく最も際立ったのは次の点であろう。すなわち地方紙であれ全国紙であれ、またイングランドであれスコットランドであれ、独立支持を鮮明にした新聞はどこにもなかったということである。唯一の例外はサンデー・ヘラルドだけだった。つまりスコットランド独立に賛成票を投じるスコットランド人は、メディアの中で自分たちの意見を代表するようなものはほとんどどこにもない中での投票であったということである。

Perhaps the most arresting fact about the Scottish referendum is this: that there is no newspaper – local, regional or national, English or Scottish – that supports independence except the Sunday Herald. The Scots who will vote yes have been almost without representation in the media.

と言っています。サンデー・ヘラルドは、昔はグラズゴー・ヘラルドという名前であったスコットランドの有力2紙のうちの一つの日曜紙です。

モンビオットによると、社説でそのように謳うことはなくても、ほとんどの有力メディアが独立を否定するような記事を掲載した。例えばSpectatorのサイモン・ヘファー(Simon Heffer)などは、スコットランド人を「福祉中毒に罹っている」(addicted to welfare)と決めつけていたし、The Timesのメラニー・リード(Melanie Reid)はスコットランド人は利己的(selfish)で子供じみて(childish)いる人たちと呼んだりしていた、というわけです。

確かに今回の運動の期間中は、あろうことか女王が「真剣に考えてね」(think very carefully)と発言してみたり、オズボーン財務相などは「独立するならポンドは使わせない」と言い、EUの幹部なども「独立スコットランドのEU加盟には面倒な手続きが必要だ」という趣旨の発言をしてみたり・・・それがいずれもメディアによって大きく報道されていた。ただ、それでも途中の世論調査では相当な接戦であったわけで、メディアによる「脅かし」報道がどこまで影響したのかはよくわからない部分がある。このあたりのことについて、ジョージ・モンビオットは「ごく少数の例外を除いて、ジャーナリストは常に世の変化を察知するのがいちばん遅い人たちの部類に入る」(With a few notable exceptions, journalists are always among the last to twig that things have changed)として

ジャーナリストたちは、自分たちを囲い込んでいるサークルの中で普通の人々の感覚からずれ、恥知らずにも変革の欲求まで見逃してしまうということだ。

Journalists in their gilded circles are woefully out of touch with popular sentiment and shamefully slur any desire for change

と決めつけています。彼がいうジャーナリストたちを囲んでいる「サークル」というのは、ロンドンの国会議事堂があるウエストミンスター界隈でのみ仕事をしている「主要メディア」の政治記者たちのこと。日本でいう「永田町にたむろする記者たち」のことですね。

2014年9月24日 up date

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