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賛助会員 小川 忠
(筆者は国際交流基金のジャカルタ事務所長として独自に情報発信をしている)
インドネシアのイスラムは、郷愁をかきたてる。
冒頭から奇をてらうような一文で申しわけないが、これが今から30年近く前、初めてインドネシアに来た時に感じた印象だ。溶いた水彩絵具をカンバスに散らしたように、大空が紅色に染まるジャワ村落の夕暮れ。稲穂が揺れる水田に、近くのモスクから流れてくるイスラム教徒の祈りの声。子どもの頃に習った童謡「夕焼け小焼け」を思い出させて、懐かしさが胸にしみた。人を優しい気持ちにしてくれる穏やかで平和な信仰の風景が、そこにはあった…。
東南アジアに根付いているイスラム信仰は、仏教と変わらぬくらい、この地の土壌に見事に適合している。乾燥した中東の砂漠に発した宗教体系が、高温多湿の風土になじみ、一体化しているのだ。(写真 モスクと稲穂)
2.4億国民の約9割がイスラム教徒であり、その意味するところ世界最大の信徒人口を擁するインドネシア内部において、イスラム受容のあり方は多様だ。これを一枚岩的に語ることは、深刻な誤解を生む可能性がある。それでもあえて言えば、主流をなすのは土着の文化、生活と融合した「穏和で、寛容な信仰生活」というのが、インドネシア・イスラムに関する従来の捉え方であった。