NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

「厳格化」するイスラムと向き合う

中東より「イスラム的」な日本 

 ところで外国人であり、非イスラム教徒である者が「インドネシア・イスラムの厳格化は好ましくない」という態度を取るのは不適切であり、「余計なおせっかい」といわれても仕方がない。また、信仰の厳格化は、必ずしも他者への非寛容、非妥協を意味するものではない。確かにジルバブ(イスラム衣装)を着用する若い女性が目に見えて増えたし、ビールを除いてアルコール類は買いにくくなった。不当に思えるほどの税を課されて値段も高くなった。日本で千円くらいの紙パックの日本酒が、ジャカルタでは一万円近く払わないといけないのは、非イスラム教徒の酒飲みには承服しがたい。だからといってそうした現象が必ずしも信仰の厳格化を意味するとは限らない。そしてイスラム教徒誰もが「厳格化」しているわけでもない。「忠実なイスラム教徒」は35%にすぎず、「本当に身についたものでない」と自覚する割合が46%だった、という民間機関「インテージ」の市場調査もある(2013年11月26日付け「The Daily NNA」)。イスラム指導層と普通の市民の間には距離があるのかもしれない。

 ここでイスラム国立大学ジャカルタ校のコマルディン・ヒダヤット学長が興味深いエッセイを書いているので紹介したい(2011年11月5日付け『コンパス』紙)。日本国外務省はイスラム寄宿舎(プサントレン)の指導者を日本に招聘し各地で市民、青少年と交流する事業を実施している。インドネシアに戻った彼ら全員が、同学長に語ったのは以下のような言葉だったという。

 「日本の社会生活は、これまで訪問した中東の国と比べても、最もイスラム的な価値観を映しだしていた。」「日本の市民は整列することに慣れており、清潔を保ち、正直で、よく他人を助け、インドネシアでも失われつつある様々なイスラムの価値観を見つけることができた。」

 中東よりも日本の方がイスラム的!

全く意外なコメントだが、国際交流基金が毎年招聘している若手・中堅イスラム知識人からも同様の発言を聞いたことがある。「秩序」「清潔」「正直」と並んで「親切(寛容)」を彼らはイスラム的価値と捉えていることが重要だ。

東ジャワの女子プサントレンにて 欧米から上から目線で人権感覚の欠如を指摘されると反発するイスラム知識人が、非欧米の日本との普段着の交流の中で、自らを見つめ直し寛容の心を温めている。彼らの心に映る日本は、現実の日本とは異なる買い被りの日本像かも知れない。そうであったとしても、インドネシア・イスラム社会の指導的立場にある人々が日本との交流を通じて、寛容なイスラム精神とは何かを考えてくれるならば、それはそれで世界の平和と相互理解に対する、一つの国際貢献と言ってもよいのではないだろうか。(写真 東ジャワの女子プサントレンにて)

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2013年12月30日 up date

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