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このような不統一、断片的であるにせよ、過去の国勢調査によって得られた統計を以下の通り並べてみると、やはりインドネシアという国家の中にあって、インドネシア語の言語空間が次第に拡大し、勢いを増しつつあることが見えてくる。
イ.「インドネシア語を第一の言語」と回答した人の比率は、1980年12%→1990年15%に上昇。
ロ.②カテゴリーについて、家庭でインドネシア語を使う回答した人の比率は1980年12%→2010年20%(4200万人)に上昇。
ハ.③カテゴリーについて、インドネシア語を話せると回答した人の比率は、1970年40%→1980年60%→1990年67%に上昇。
2000年以降は③カテゴリーに関する調査が行われていないが、90年代に生じた民放テレビやITの急拡大、そして学校を通じたインドネシア語教育の浸透は、インドネシア語理解層の比率を更に上昇させたと考えられる。
上記イに関して、1990年調査の結果を更にみると「インドネシア語を第二の言語」と回答した人が68%いる。つまり、この時点で15%+68%=国民の83%がインドネシア語を大なり小なり話していたことになる。そして現在、あえて個人的な印象を述べれば、インドネシア語を話せる国民の比率は程度の差はあれ90%を越えたのではないか。
「インドネシア語をアセアン共通言語へ、国際語へ」というかけ声が強まっている背景には、こうようなインドネシア国内においてインドネシア語圏が確実に拡大しているという状況が存在するのであろう。
第10回「インドネシア語」会議に提出された論文「民族のアイデンティティーと地位向上の手段としての言語外交」のなかで、北スマトラ大学ロバート・シバラニ教授は、インドネシア語の海外普及を積極的に推進する外交政策として、
「アセアンのような国際会議の場における公式使用言語としてマレー語・インドネシア語を推進」
「海外におけるインドネシア研究支援」
「インドネシア語を使用する文化ミッションの海外派遣」
「在外インドネシア大使館等でのインドネシア語講座の開設」等
を提唱している。
1970年代の日本がそうであったように、経済成長にふさわしい国家の成熟を示すべきという国内世論の高まりとともに、自国言語・文化の海外発信に乗り出してくる段階にインドネシアは入りつつあるのだろうか。