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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
4月29日付の米シカゴ・トリビューン紙が「ドナルド・トランプとロナルド・レーガン」(Donald Trump vs. Ronald Reagan)という見出しの社説を掲載しています。トランプが共和党の候補者を決定づける4日ほど前のことです。レーガンが大統領に立候補・当選したのは1980年だから、あれから36年が経つのですね(その1年前には英国でサッチャー政権が誕生している)。トランプがスローガンにしている「強いアメリカを取り戻そう」(Let’s make America great again)というのは、レーガンが使ったスローガンだったけれど、それ以外にもこの両者の間には類似性がある。
まず時代の雰囲気が似ている。1980年頃のアメリカはというと、5年ほど前に「撤退」という形のベトナム戦争に敗れた後遺症で意気消沈している部分があった。イランではアメリカ人人質事件が起こり、ソ連がアフガニスタンを侵略しているのに、アメリカは「打つ手なし」という感じだった。また国内では日本などからの輸入のおかげで工場労働者の職が失われたりして、ブルーカラーの欲求不満が高まっており、JFケネディが大統領であった1960年代の理想に燃えた超大国の時代は終わった・・・という雰囲気だった。どこか現代と似ていますよね。
1980年の大統領選挙は民主党のジミー・カーター大統領(当時)と共和党のレーガンの争いであったわけですが、その選挙の流行言葉のようにメディアで使われたのが「レーガン・デモクラッツ」(Reagan Democrats)という言葉だった。普段は民主党に投票するはずのブルーカラーの白人労働者のことで、レーガンは彼らの人気を集めることに成功した。
ただレーガンについては、「世間知らずのアホ」(reckless ignoramus)、「単純細胞的な世界観」(simple-minded view of the world)、さらには「人種間の対立を利用している」(a knack for exploiting racial resentments)というような批判も根強かった。レーガンを大統領にすれば第三次世界大戦が起こると警告する人びとも多かった。要するに支持であれ、反対であれ、あのときのレーガンといまのトランプには類似点があるということです。
ただシカゴ・トリビューンによると
似ているように見えるので騙されがちだが、80年のころのレーガンと2016年のトランプでは類似点より相違点の方が大きくて深いのだ。
But the resemblance is deceptive. The differences between the Reagan of 1980 and the Trump of 2016 are bigger and deeper than the similarities.
とのことであります。
まずレーガンには保守主義者として「一貫性」(consistency)があり、ワシントンの連邦政府が何をするべきであり、するべきでないかということについても明確なビジョンを持っていた。そのうえで一級のアドバイザーにも恵まれていた。しかも8年間にわたってカリフォルニア州知事を務めた経験を通じて、理想と現実のバランス感覚を鍛え上げていた。トランプの方は公職の経験は皆無であり、思想的にも「一貫性」というものはない。またこれといったアドバイザーもいない。
シカゴ・トリビューンはまた具体的な政策面でも二人の間には違いがあると言います。例えば不法労働者への対応。トランプはメキシコとの間に壁を作ると言っているけれど、レーガンの場合は1986年に数百万の外国人労働者に就労資格や市民権を与える「恩赦」(amnesty)に大統領として署名したりしている。またカナダ、メキシコとの間で締結された北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)はレーガンの発想(brain child)であると言われているがトランプはこれを忌み嫌っている。
レーガンは自分以上に大きな目標のために奉仕したが、トランプの場合は、心の中で自分自身以上に大きなものはないと考えているという印象を与える。
Reagan served a cause bigger than himself. Trump gives the impression that in his mind, there is nothing bigger than himself.
というわけで、シカゴ・トリビューンはトランプを支持しようとする共和党員に対して
自分はロナルド・レーガンが推進した理想をさらに進めることになるのか?それとも自分が大いに尊敬・称賛した人物が遺したものをダメにしようとしているのか?
Would I be advancing the ideals that Ronald Reagan advocated? Or would I be undercutting the legacy of someone I admired?
ということを自問自答するべきだ、と言っています。