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国際問題コラム「世界の鼓動」

ドイツから英国人へ:INはIN、OUTはOUTだ

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

ドイツの週刊紙、Der Spiegelの最新号(6月11日号)が英国のEU離脱問題に関する特集記事を掲載しています。題して “BITTE GEHT NICHT!”(出て行かないで!)なのですが、英国人に読まれることを意識して23ページにわたる英文のセクションも含まれている。その英文セクションに掲載されているのが、メルケル政権で財務大臣を務めるヴォルフガング・ショイブレ(Wolfgang Schäuble)とのインタビューです。題して “Britain Is a Leading Nation”(英国は指導的な国)。当然ながら英国がEUに残留することを望んでいるのですが、最終的には英国人が決めることだと言っている。ここをクリックすると全文を英文で読むことができるのですが相当に長いものです。この際、一か所だけ抜き出して紹介します。

SPIEGEL:何故、英国が残留する方がEUにとって望ましいのか?英国はこれまでだって何度もEUから距離を置くようなことを言っている。
Schäuble:英国はEUの中でも最強の経済力を持つ国の一つであり、ロンドンはヨーロッパ最大の金融の中心地だ。英国は(EUの)外交・安全保障政策に関連する事柄についても指導的な役割を果たしている。英国とともにあるヨーロッパは、英国抜きのヨーロッパよりも強いものになる。さらに言うと、英国はEUの中でも常に市場経済による物事の解決を支持してきた国であり、その意味ではドイツ政府の味方となってきた国なのだ。私の意見ではあるが、ヨーロッパにとって英国的な現実的合理主義(pragmatic rationality)は絶対に必要なものなのだ。
英国にとってEUに留まるメリットは何だと思うか?
英国は経済的にはヨーロッパの国々と緊密につながっているパートナーなのだ。この絆を断ち切ることは、英国にとっては重大な後退を意味するするし、英国自体の相当な弱体化につながるということだ。このグローバル化の時代に「栄光ある孤立」(splendid isolation)は決してまともな選択ではない。
しかし英国はEUに加盟せずに(EUが持つ)単一市場がもたらす恩恵に浴することは可能ではないか。スイスやノルウェーはそのようにしている。
それはうまく行かないだろう(That won’t work)。英国はいま脱退することを望んでいるクラブのルールに従うことが要求されるのだ。多数の英国人が離脱(Brexit)を選択するということは、(EUが持つ)単一市場そのものに反対するという意味でもあるのだ。要するにINはIN、OUTはOUTということだ。英国人の主権は尊重しなければならない。

ショイブレ大臣の発言の中に出てくる「栄光ある孤立」(splendid isolation)という言葉ですが、これは19世紀末に当時の大英帝国が採用した非同盟政策を象徴する言葉です。当時のヨーロッパにおける大国(オーストリア、プロイセン、ロシア)とは同盟関係を持たないという孤立主義的な姿勢のこと。その政策も行き詰まりを見せたとき、当時の新興勢力の一つであった日本との間で結ばれたのが日英同盟(1902年)です。

2016年5月20日 up date

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