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国際問題コラム「世界の鼓動」

オバマと広島:謝罪より大切なこと

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

オバマ大統領の広島訪問は英国メディアでも大きく伝えられましたが、BBC、Guardian、Independentのサイトが訪問が行われた2時間後にはトップで伝えていたのとは対照的に保守派のTelegraphやDaily Mailのサイトにはちょっと見た目には全く何も出ていませんでした。それはともかく5月27日付のGuardianのサイトに同紙のコラムニストであるサイモン・ジェンキンズがエッセイを寄稿して

アメリカの大統領が広島の記憶に対して敬意を払うための最善の方法は、非戦闘員がなぜ爆撃されることになるのかをしっかり考察することだ。
The best way the US president can respect the memory of Hiroshima is by examining how non-combatants ever come to be bombed

と述べています。

ジェンキンズのエッセイの書き出しは次のようになっています。

バラク・オバマは本日(5月27日)広島への原爆投下について「謝罪」するべきだろうか?ノーである。(謝罪しても)意味がないのだ。謝罪はまた安っぽくもある。彼が行うべきなのは、(原爆投下についての)説明であり、正当化であり、必要であれば学ぶということである。そちらの方が高くつくのだ。
Should Barack Obama “apologise” today for America’s bombing of Hiroshima? No. There is no point. Apologies are cheap. Instead, he should explain, justify and, if need be, learn. That is more expensive.

ジェンキンンズによると、普通のアメリカ人は、原爆投下によって日本が降伏したのだからそれで充分正しかったと考えるが、原爆投下に実際にかかわったアメリカ人たちはこれまで罪悪感に悩まされ続けている。すなわち

あれほどの破壊力を有する爆弾である。なぜまず(日本に対する)警告として無人島にでも落とそうとしなかったのか?
Why was such a bomb not first dropped on an uninhabited island as a warning?

最初に広島に落とした後に(終戦に向けての)外交的な結果を待つことなく、第二弾を長崎に落としたのはなぜなのか?
Why was a second bomb dropped later on Nagasaki, before the diplomatic outcome of the first could be assessed?

あのような殺害行為は戦争において正当化され得るものなのか?
Could such killing ever be justified even in war?

という自問自答であるということです。

ヒロシマとナガサキの「成果」らしきものとして唯一挙げられるのはあれ以後の戦争で核兵器というものが使われたことがないということだ、とジェンキンズは言います。核兵器の使用を抑止されているのが、実は原爆のユーザー(アメリカ)であるというのが皮肉な話だというわけで、北朝鮮の核ミサイルに対する抑止行為は、実際には通常兵器によってこれを押収することしかない。核兵器は現実には使えない装備である(without real-world utility)ということです。

西側とソ連の間に存在した「恐怖のバランス」(balance of terror)が核兵器による抑止効果の例として挙げられる。あの頃、確かに「偶発」(accident)による核戦争の恐れは存在したけれど、いわゆる「冷戦」が「熱い核戦争」に発展する可能性は実際には小さかった。

大統領に就任した際にオバマは世界から核兵器を追放すると誓ったけれど、それは果たされていない。どころかアメリカ自身の核武装を常に新しいものにしつづけている。確かにいまの世界にはテロリストがスーツケースに核爆弾を入れて持ち運ぶというリスクがある。が、その危険性は実際には極めて小さく(minimal)、テロリストが採用すべき作戦としても全く意味をなさない(strategically irrelevant)。そもそも核のテロリストたちに核兵器で対抗しようなどというのはアホらしい(stupid)。
広島や長崎に対してオバマが敬意を払う最善の方法は、民間人に対して原爆を落とすという決定が如何にしてなされるものなのかをしっかりと考察する(to examine relentlessly)ことにあるのだ。そのような決定がなされる際にどのような戦略上・道義上の意味付がなされたのかをもしっかり考察されなければならない。

ジェンキンズはまた、オバマの言う「核兵器の廃絶」と化学兵器の禁止の間にはどのような違いがあるのか?を問いかけると同時にオバマがアフガニスタンやパキスタン、中東で使い続けるドローンの破壊性は核弾頭以上のものがあると批判します。もちろんドローン攻撃に抑止力はない・・・というわけで、

中東において欧米が爆撃を続けることによる戦略上のダメージは、それがもたらす利益に比べれば余りにも大きすぎるのだ。オバマは広島に謝罪するのではなく、(広島への原爆投下)によって彼がどのような教訓を学んだのかを問うべきなのだ。
The strategic damage done by continued western bombing of the Middle East is out of all proportion to its benefits. Obama should not apologise for Hiroshima. He should ask what lessons it has taught him.

というのがジェンキンズの結論です。

 

2016年5月30日 up date

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