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スカブディ報告には、もう一つ注目に値するポイントがある。脱過激化プログラム担当者の受刑者に接する態度は、更正の成否のカギを握る重要要因であるということだ。高圧的な態度をとった時はうまくいかず、受刑者一人一人の個性、価値観、資質を尊重し、彼らと丁寧に対話しようという姿勢が重要であるという。以下、受刑者の声。
「もし我々の仲間を変えたいというのなら、誠実さがいかに重要か理解しておかないといけない。(対テロ特殊部隊)のA氏のようにいい人で、誠実に仲間のことを我がことのように考えてくれる人でないと、うまくいくわけがない。」
「もし脱過激化プログラムが、担当者の点数稼ぎ、手柄のためにやっているのだと受刑者が感じたら、彼らはそっぽを向くだけだな。」
「仲間から聞いた話だ。ある刑務所ではイスラムの偉い先生が招かれて講話をしたのだが、一方的に高説をたれるのみで対話がないので、仲間たちは途中で退席して戻ってこなかったそうだ。自分の意見を聞いてくれない人の意見を聞きたいとは思わない。」
これらの発言は、現在の脱過激化プログラムが抱える課題ともつながっている。受刑者の数と比べて、脱過激化プログラム担当人員数が足りておらず、そのため受刑者一人一人に丁寧に対応できないゆえに画一的な対応となって、十分な効果をあげていないという指摘がある。さらに適任な人材、財源の不足は刑務所のずさんな管理を招き、対テロ対策上、深刻な問題をひき起している。このひとつが、収監中のイスラム過激思想イデオローグがソーシャルメディア等を通じて扇動的なメッセージを刑務所外つまり世界に発し、IS支持者を拡大させているという現実なのである。
このように、この国の脱過激化プログラムには問題もまだ多く、改善に向けての取り組みは発展途上である。しかし、プログラム実施を通じて集められたテロリストの発言のなかに、イスラム過激思想の拡散を防ぐ問題解決の糸口も隠されているように思える。長期的視点から、テロ問題解決においてソフト・アプローチの重要性を強調したい。