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国際問題コラム「世界の鼓動」

テロリストの声を聞くと

国際的に注目が集まる「脱過激化プログラム」

テロ対策は、がんとの戦いのようなものだ。がん細胞の摘出という外科的手術とがんになりにくい体質改善の両方が必要なのである。実際インドネシアでは、両方のアプローチが試みられている。

デンスス88外科的手術にあたるのは、反テロ法やマネー・ロンダリング規制等の法整備、国家テロ対策庁や国家警察による対テロ特殊部隊(デンスス88、写真)の創設、デンスス88によるテロ集団のアジト急襲・摘発といったハードなアプローチである。

こうしたハード・アプローチによって、たしかにジェマ・イスラミアは打撃を受け、その組織は弱体化した。それゆえにハード・アプローチは緊急対応としては有効であったといえるが、テロの脅威は根絶したわけではなく、今もイスラム過激思想のシンパは広大なインドネシアのどこかに潜んでいるといわれている。治安当局による監視も監視対象人数が限られている限りは有効だが、対象が一定数をこえてしまうと、取りこぼしが出るのも容易に想像できる。インドネシア社会に過激思想が拡がり、テロリスト予備軍が拡大するのを防ぐためには、過激思想になびく心の問題を扱うソフト・アプローチが重要となるのだ。

英国の対テロ治安当局出身研究者リンゼー・クラッターバック(Lindsay Clutterbuck)氏は、「脱過激化プログラムとテロリズムへの対応」という論文で、こうした過激思想を抑止するために必要とされるソフト・アプローチについて、①過激化予防、②過激化への対応、③脱過激化といった三つの段階に基づいて分類している。

プログラム表

①~③はサイクルのような関係で、③テロ発生後の脱過激化プログラムは、①過激化への予防とも重なる。同時多発テロが発生したフランスは②段階にあり、以前に連続テロを経験したインドネシアは現在、③及び①段階にある。

そして、近年世界のテロ対策関係者が注目し始めているのが、インドネシアの③脱過激化プログラムである。

クラッターバックの定義では、「過激化」とは、「ある個人もしくは集団が、特定の環境のもとに、一定の時間を経て、暴力的な過激行為、テロリズムに関与する危険性をもった思考を形成するプロセス」を指す。これから派生する用語として「脱過激化(Deradicalizaion)」とは、「過激化プロセスを減速させ、反転させることによって、社会がテロに遭う潜在的リスクを軽減させる方法、技術」を意味する。

更生した元バリ爆弾事件テロリスト「脱過激化プログラム」は、一度は過激思想に身を委ねたテロリストを、過激思想の呪縛から解き放ち、再びテロリズムに奔らないよう、テロリスト本人や家族に対して精神的・経済的・社会的に支援を行うプログラムである。(写真 更生した元バリ爆弾事件テロリストⓒBenarNews)

インドネシアには、ジェマ・イスラミアのテロに関連したとして、数百名規模の受刑者が各地刑務所に収監されており、彼らのなかには今後出所を予定されている者もいる。そんな彼らに対し、出所後、再びテロに手を染めないようにするために、彼らをイスラム過激思想の影響から引き離し更正させる脱過激化プログラムが、国家テロ対策庁によって行われている。また、このプログラムの成否に関する評価、研究も、インドネシアのみならず米国や豪州の心理学者、社会学者等々も加わった国際的な研究者の手によって行われており、研究結果が公表され始めている。

そうした研究のなかに、拙文の冒頭に掲げたテロリストは何者か、テロリストの心性理解の参考となるものがあったので紹介したい。

インドネシア大学の心理学者ゾラ・スカブディ(Zora A.Sukabdi)は、インドネシア政府が実施している「脱過激化プログラム」について、刑務所に収監されている43人の元テロリストたちにインタビューを行った。その結果として、受刑者たちの更正は可能であること、改善を要する事項があることなどをまとめている。元テロリストたちの肉声が引用されているのは、大変興味深い。

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2015年12月1日 up date

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