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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
ちょっと古いけれど、7月28日、フィンランドの首都、ヘルシンキで1万5000人が集まって「開かれた国、多文化主義の国、フィンランド」(open, multicultural Finland)を要求する大集会が開かれたことは日本のメディアではどの程度報道されたのでしょうか?むささびはフィンランドの知り合いに教えてもらうまでは知りませんでした。
なぜ今さら「開かれた国」の要求集会なのか?実は集会が開かれる4日前、フィンランドのオリ・イモネン(Olli Immonen)という国会議員が自分のFacebookで “Finland for the Finns”(フィンランド人のフィンランド)と題する次のような英文メッセージを載せたことがこの集会が行われるきっかけとなっている。
私は夢見ている。多文化主義と呼ばれる悪夢を打ち負かすような強くて勇敢な国が現れることを。我々の敵が生息する(多文化主義という)醜い泡はもう間もなく破裂して100万ものちっぽけな粒と化すであろう。我々の生活はいま極めて厳しい時代に巻き込まれている。いまの日々は、さまざまな国々の未来にその足跡を残してしまうであろう。しかし私は自分の同士である闘士たちを信じている。我々は祖国、たった一つのフィンランド人の国のために最後まで戦い抜くであろう。勝利は我々のものとなるであろう。
多文化主義の蔓延に対して反対するということは、最近ヨーロッパに押し寄せている中東やアジア・アフリカからの移民の受け入れに反対するということです。「フィンランドはフィンランド人のものだ!」というわけです。この愛国的メッセージを掲載したイモネン議員はthe Finns Party(フィンランド人党)という名前の政党に所属している。この党は考え方が「反移民・反EU」で、極右に近いのですが、ことし4月の選挙では、得票数では第3位、議席数では第二の勢力を誇る政党となり、中央党,国民連合党とともに現在のフィンランド連立政権の一翼を担っている。党首は現在のフィンランドの外務大臣となっている。
最近もオーストリアとハンガリーの国境付近で保冷車の中から70人を超えるシリア移民の死体が発見されたりして、移民の受け入れは、ヨーロッパにおける最大の問題となっている。EUの統計によると、2014年の1年間で、約63万人の外国人(EU圏外)がヨーロッパ各国に到着して難民申請を行っている。ダントツで多いのがドイツで申請件数は20万を超えている。それに比べるとフィンランドにおける件数は3620人だから、絶対数で見ると微々たるものという気がするけれど、ドイツの人口(8000万)とフィンランド(500万)を比較すると必ずしも「微々たるもの」とは言えない。人口10万人あたりの難民の数は662人でヨーロッパ31カ国中の17位で英国(494人)よりも多い(トップはスウェーデンの8365人)。
「フィンランド人党」という政党自体が、増え続ける移民を制限すること、ギリシャを始めとするユーロ圏の借金国には厳しく対応することなどを訴えて勢力を伸ばしてきたわけで、イモネン議員の発言はそれをちょっと過激にしただけという捉え方もできる。この発言に対しては1110人が「いいね!」というボタンを押している。それが全員フィンランド人ではないかもしれないけれど、フィンランド人の中には「よくぞ言ってくれた」と考える人も相当数いるということですよね。イモネン議員は、自分のブログにネオナチ風の写真を載せたりして党本部から懲戒処分を受けたりしている「札付き」らしいので、心から彼を支持する勢力がどの程度いるのかはよく分からないのですが・・・。
ただイモネン議員のメッセージがFacebookに投稿されたのが7月24日の夜だったのに、4日も経たないうちに1万5000人の糾弾集会が組織されたということは、彼の発言に対する拒否反応もまた強かったということになる。
7月27日付のファイナンシャル・タイムズ(FT)によると、移民の受け入れに反対するフィンランド党のような政治勢力が伸びているのは、これまではどちらかというとリベラルなところと考えられていた北欧諸国に共通して起こっていることなのだそうです。ノルウェーの進歩党(Progress party)、スウェーデン民主党(Sweden Democrats)、デンマークの人民党(Danish People’s party)などの人気の高まりがそれにあたる。