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国際問題コラム「世界の鼓動」

エリザベス女王:長生きしていればいろいろあります

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

去る9月9日はエリザベス2世女王が英国の君主としての在位期間が2万3226日で最長記録を達成した日となりました。エリザベス女王以前の君主の最長記録保持者は、ビクトリア女王(在位:1837-1901)。王室のオフィシャルサイトを参考に、エリザベス女王についての事実だけを超簡単に確認しておくと、1926年4月21日午前2時40分、ヨーク公夫妻の長女として誕生、1952年2月6日の戴冠式で女王(25才)となる。エリザベス女王は今年で89才です。

ビクトリア女王が在位していた時代の英国は「産業革命と大英帝国」に象徴されるように、世界をリードする超大国であったわけですが、現在のエリザベス女王が在位してきた63年間は英国にとってどのような時代であったのか?9月12日付のThe Economistが1952年と2015年の英国をさまざまな側面から比較しています。例えば次のような数字です。

1952年 2015年
人口 5000万 6500万
非白人の人口 7万5000人 800万人
平均寿命(男) 67才 79才
      (女) 72才 83才
就職率(男) 88% 78%
     (女) 35% 71%
平均住宅価格 4万9000ポンド 19万4000ポンド

上の表の数字の中で特に注目すべきなのは「非白人の人口」の増え方です。1952年当時に比べると100倍以上になっている。英国が文化的・人種的に多様化したということです。これ以外の数字として、仕事に就いている者がゼロという世帯は63年前には4%だったけれど、現在では16%にのぼる。また人口1000人あたりの結婚数(1年間)は1952年が16人であったのに現在は9人に減っている。その一方で離婚数は63年前は3人だったのに今では約4倍の11人となっている。1952年には同性結婚なんて考えられなかったのが、いまでは「当たり前」ではないにしても合法化されてはいる。つまり人間関係がかつてのように一様ではなくなったということです。

ビクトリア時代に始まった大英帝国は、エリザベス2世の時代になって大きく「衰退」している。例えばインドが独立したのは、彼女が即位する5年前のことです。尤も1952年の時点でもマレーシア、ナイジェリア、カタールなど46カ国が英国の植民地としてロンドンから直接統治されてはいたのですが・・・。The Economistは、ビクトリア時代を性格付けたもう一つの現象である産業革命は、エリザベス時代が始まって27年目の1979年に終わりを告げたと言っています。すなわちサッチャー政権の誕生による自由競争経済の進展によって英国経済が製造産業中心から金融・情報などを中心とするサービス産業へと転換したのが1979年だということです。

The Economistによると、現代のエリザベス時代はそれまでの英国に比べれば束縛が少なくてハッピーな時代であるとは言えるけれど、分裂気味であることも否定できない。そのことはスコットランド独立の機運にも表れているし、労働党の党首に「強行左派」といわれるジェレミー・コービンが選ばれたことで、与野党の対立が激化するだけでなく労働党内部も分裂気味であるし、さらにEUとの関係をめぐって保守党の内部さえも意見の対立が見られる。

エリザベス2世時代を特徴づける傾向(自由・分裂など)は、彼女自身よりもはるかに長生きすることになるだろう。にもかかわらず、彼女の王国の団結力がこれからも生き続けるかどうか・・・それはいまいちはっきりしないところである。

The defining trends of Elizabeth II’s reign will outlive her by a long way. Her kingdom’s ability to remain united in spite of them is less sure.

とThe Economistは言っています。

2015年9月29日 up date

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