NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

イスラム・ヌサンタラという戦略

賛助会員 小川 忠

(筆者は国際交流基金のジャカルタ事務所長として独自に情報発信をしている)

インドネシアが世界最大のイスラム人口大国であることは、幾度も触れてきた。そのなかでも最大のイスラム組織「ナフダトゥール・ウラマ(NU)」と第二の「ムハマディヤ」が、今月ほぼ同時期に全国大会を開いた。この国の独立前から現在に至るまでNU、ムハマディヤは、宗教の枠を超えて政治・経済・社会文化に少なからぬ影響を及ぼしてきた。両組織がどのような方向に向かおうとしているのかによって、インドネシアの進路も変わる可能性がある。

それぞれの大会において様々な論客が、両組織の直面する課題と実践について論じていた。本通信では世界的にみても有数の巨大イスラム組織NUに焦点をあてる。

「イスラム覚醒」現象が進行中のインドネシアにおいて、巨人NUは、どのように思考し、どちらに向かって歩き出そうとしているのか。

紛糾した全国大会

NUは第33回全国大会を、東ジャワ州ジョンバンで8月1日から6日未明まで開催した。初日の開会式にはジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領も出席し、演説を行っている。この2日後、マカッサルで開かれたムハマディヤ開会式にも大統領が出席しているのは、インドネシア政府がNU、ムハマディヤをいかに重視しているか示すものであろう。

NU開会式でジョコウィ大統領は、NUがインドネシア・イスラムの性格を特徴づける寛容、平和、進歩に果たしてきた役割を讃え、世界において暴力と過激主義が拡散するなか、文明のかけ橋としてNUの奮闘に期待する旨述べた。

ムストファ・ビスリ(Mustofa Bisri)師ところが「NUよ、寛容の旗手たれ」という大統領の格調高い演説とは対照的に、5日間にわたる会議の内実は、非寛容と混乱に満ちたものだった。指導部人事をめぐる派閥抗争、政党の介入、怪情報の横行、票の買収行為さえ噂された。組織分裂も危惧された、大会のあまりの惨状に、「最高指導者」(rais aam)に推された、「グス・ムス」ことムストファ・ビスリ(Mustofa Bisri)師(写真)が同ポストへの就任を辞退し涙ながらに団結を呼びかけた結果、保守色が強いマールフ・アミン(Ma’ruf Amin)師が「最高指導者」に、サイド・アキル・シラジ師(Said Aqil Siradj)が議長に選出された。見苦しい抗争のなかで、寛容穏健派の代表格であるグス・ムスの良心的な姿勢が注目を集め、NUにも人がいることを世間に示したのが、数少ない組織的収穫だったかも知れない。

しかし組織面での混乱とは別に、若手・中堅層を中心に今日のイスラムのあり方について活発な議論が提起され、あらためてこの巨大組織がもつ多様性と活力を再認識させる大会でもあった。NU研究の国際的権威、千葉大学中村光男名誉教授が、今回ジョンバンに足を運びNU大会を傍聴している。中村名誉教授によれば、インドネシア・イスラムがアラブ・イスラムに蔓延するテロリズムや過激主義とは違って他宗教との共存をめざすことを確認し、「自分たちのアイデンティティー」は何かということを再確認したことに、今回の大会の意義があるという(「じゃかるた新聞」8/28)。

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2015年9月2日 up date

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