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国際問題コラム「世界の鼓動」

自惚れ鏡としてのインドネシア映画

かいつまんであらすじを述べる。サニ・タワイネラはマルク州アンボンのオジェク(バイク・タクシー)ドライバーとして生計をたてているが、かつては国のU-15代表チームにも選ばれたことのあるサッカーの名選手。彼の働く港町でイスラム教徒とキリスト教徒のあいだに抗争が勃発し、子どもが流血の騒乱に巻き込まれていることに心を痛めていた。

子どもたちの関心を紛争からそらすため、彼はサッカーチームを作り、そこでコーチを始める。家族や地域住民の協力を得て、数々の困難を乗り越え、彼のチームはマルク州を代表して全国大会に出場するまでに成長する。しかし、イスラム教徒とキリスト教徒混成のチームが本当に一つになるのは容易なことではなかった….。

映画『東からの光』会話シーン紛争の心の傷からチーム内に不和が生じ、惨敗した試合後のロッカールームで、サニは少年たちに問いかける。「お前たちは何者だ?俺はイスラム教徒でもなければ、キリスト教徒でもない。俺はマルク人だ!」(写真)

あらすじからお察しいただける通り、典型的な熱血スポーツドラマである。しかし監督のアンガ・ドゥイマス・サソンコ自らがアンボンに取材し、サニら当事者たちの記憶から収集した実話に基づいて脚本を執筆していることに、このドラマの重みがある。

アンボンで何があったのか。1997年のアジア経済危機、98年のスハルト長期政権の崩壊後、混乱が続いていた90年代末から21世紀初頭にかけて、インドネシア各地で地域紛争が発生したが、なかでも最大、最悪だったのがマルク紛争である。東部インドネシア、美しいサンゴの海と群島からなるマルク州。イスラム教徒が多数を占めるこの国のなかで、例外的にキリスト教徒のアンボン人が人口の半数を占める。長く彼らはイスラム教徒と共存してきた。しかし1999年1月14日にアル―諸島ドボで騒動が発生し、5日後にこれがアンボンに飛び火して、ささいな喧嘩からキリスト教徒・イスラム教徒間の大規模な紛争となり、教会やモスクへの投石、焼き討ちが続いて、数年間におよぶ抗争で死者5千人以上、70万人以上の避難民が出るという事態となった。

この紛争の原因については、「宗教紛争」、すなわちキリスト教とイスラム教という相いれない一神教同士の対立と見られがちである。しかし、インドネシアという国自体が軍部独裁体制の解体から民主化へと進む変革期ゆえの混乱、地方政治勢力の対立、軍や警察の関与、植民地時代に形成された社会構造のゆがみ等々が指摘されており、政治・経済・社会的要因が宗教を悪用した側面もあることは見逃せない。

その後、政府主導による2002年マリノ平和協定、2003年の非常事態解除と事態は沈静化に向かい、州政府は「平和が戻ったマルクに観光に来て下さい」と呼びかけているが、同じ住民同士が傷つけあい、殺し合ったことの心の傷は深いものがある。『東からの光』は、宗派間対立後の和解をテーマとする映画なのである。

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2015年8月2日 up date

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