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国際問題コラム「世界の鼓動」

自惚れ鏡としてのインドネシア映画

大ヒットが生まれない 

ところで「インドネシア映画産業、かくも多数の作品、かくもわずかな観客」というちょっとショッキングな表題の記事が、さる7月26日のジャカルタ・ポスト紙に掲載されていた。産業としてのインドネシア映画界を理解するのによい内容なので紹介したい。

同紙によれば近年、インドネシア映画の集客数が減り続けている。絶好調だった2010年には、インドネシア映画74本に総計1億6800万人の観客を集めた。2014年には、製作本数は113本まで増えた。にもかかわらず観客数は、四年前と比べて微減で1億5200万人にとどまっている。

2006年から2010年までの四年間に、17本のインドネシア映画が100万人以上の観客動員を達成した。2008年には、いまだ記録が破られていない「虹の戦士たち(Laskar Pelangi)」の463万人や、「愛の章句(Ayat-Ayat Cinta)」の358万人などのヒット作がならぶ。

映画製作者オディ・ムルヤ・ヒダヤットによれば、転機となったのは2011年にインドネシア政府の課税政策に反発した米国映画製作者協会(MPAA)が全てのハリウッド映画をこの国から引き揚げたことだった。空白を埋めるため、興行側はより多くのインドネシア映画を配給する措置をとったのだが、これが仇となった。レベルの低い映画が溢れて、観客は自国の映画に失望してしまった。

2008年

2014年

順位 映画名 集客数 順位 映画名 集客数
1 Laskar Pelangi

4.63百万

1 Comic 8

1.62百万

2 Ayat-Ayat Cinta

3.58百万

2 The Raid 2

1.43百万

3 Tali Pocong Perawan

1.08百万

3 Hijrah Cinta

711,000

4 XL:Extra Large

1.03百万

4 Mery Riana

708,000

5 The Tarix Jabrix

966,000

5 Marmut Merah Jambuh

640,000

以来、4年間様々な模索が行われているが、信頼回復への道のりはまだ遠いようだ。2014年には113本のインドネシア映画が公開された。うち観客百万人超えのヒットは2作だけで、25作の観客数は1万人にも満たなかった。この統計は自分自身の実感にも近い。

文芸映画やドキュメンタリーならまだしも、娯楽映画で公開初日や二日目の観客数が10人に満たないようでは興行的には相当に苦しい。映画製作者は入場料の低迷を、テレビ放映権料やDVD収益で埋め合わせてきたが、テレビ局が自社制作番組を増やす中、こちらの収益も伸び悩んでいる。

映画製作本数が増えて、観客数が減っている現象が意味するものは何か。安易な粗製乱造に観客がノーを突きつけているというのはその通りだろう。

しかし、さらに穿った見方をすれば、民主改革の進展、経済成長に伴う社会のミドルクラス化、高学歴化、グローバリゼーション等が錯綜するなかで、映画という自惚れ鏡は、インドネシア国民の誰をも納得させ、喜ばせる分かりやすい自画像を映しだせなくなってきているのかもしれない。(了)

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2015年8月2日 up date

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