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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
ギリシャ関連でもう一つ、7月6日付のThe Independentのサイトに出ていたロバート・フィスク(Robert Fisk)記者の
EU ‘family’ needs to forgive rather than punish an impoverished state
EU一家は困窮する国を罰するのではなく赦す必要に迫られている。
という見出しの記事を紹介します。フィスクは英国人で、本来は中東を取材することを仕事にしていますが、今回は国民投票が行われるギリシャを訪問して、いろいろなギリシャ人と話をした内容を報告しているのですが、その中から、あるお医者さんとの会話を紹介します。
医者がフィスクに
我々(ギリシャ)はEUに加盟することでヨーロッパという家族の一員になったのだ。家族のひとりが過ちを犯したら、あんたならどうする?その一員と一緒に仕事をしなければならないのだよ。我々はヨーロッパの団結を必要としているのだ。
と語ります。医者は「ヨーロッパの団結」と言っているのですが、”your solidarity” という英語です。つまりギリシャが必要としているのは、「EU側からの団結の姿勢」だと言っている。それに対してフィスクは
あんたの息子が莫大な借金を抱えたとしたら親のあんたが責任をとらなければならんだろう。あんたの息子が、自分の家族の金を使い込んでしまったらどうする?あんたの息子が私に借金をしていたとすると、私は親であるあんたに対して金を返すように要求する権利ってものがあるだろう。そうしたとしてもそれほど情け容赦がないというものでもないはずだ。
と答えながらも自問します。
ギリシャとEUの関係は「家族」のようなものなのか?あの医者の考えでは、EUは単なる銀行の集まりではなくて家族のようなものであり、家族は子供たちをすべて平等に扱わなければならず、道を外れてしまった子供は罰だけでは更生しない(erring children could not be reformed by punishment)というものだった。
そしてフィスクはさらに自問する。
ギリシャが物乞い国家になりさがってしまったら、それも自業自得だ・・・と自分たち(ギリシャ以外のヨーロッパ人)は自分たちに言い聞かせようとするだろう。そしてスペインの左派政党であるポデモスにとってはいい教訓になるはずだなどと考えるのだ。一線を超えてはいかんよ。「緊縮政策」を受け入れそれに耐えるのだ、と・・・。「緊縮財政」(austerity)というのは、「貧困」(poverty)をちょっと丁寧に言っただけのことなのに・・・。
そしてフィスクのエッセイの締めくくりは
金持ちの懐を肥やし、貧乏人をさらに困窮させる銀行家の集団としてのEU・・・我々はそんなことのためにEUを作ったのだろうか?二度とヨーロッパで戦争は起こさない・・・そのためにEUを作ったのではないのか?で、これから我々はギリシャに対してどんなことを押し付けようとしているのであろうか?
But is that why the EU was created? As a bankers’ union to enrich the wealthy and impoverish the poor? It was supposed to ensure that there will never again be war in Europe? So what are we going to inflict upon the Greeks?
となっている。
ところで、英国の世論調査機関(YouGov)が7月5日の国民投票後にEU6カ国の人びとを対象にアンケート調査を実施しています。うち英国、スウェーデン、デンマークはユーロ圏ではない。質問は「ギリシャの債務について削減またはギリシャと再交渉すべしか、その必要なしか」というものだった。その結果、英国人とフランス人の意見がほぼ五分五分だったのに対してドイツと北欧3国の人びとはかなりの割合で「再交渉の必要なし」というものだった。特にフィンランド人は「74対14」と最も強硬だった。フィンランドはギリシャに対して37億ユーロの債権がある(ドイツは682億、フランスは438億)のですが、これはフィンランドの1年間の国家予算の10%に相当する金額なのだそうです。