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国際問題コラム「世界の鼓動」

シリーズ・海外渡航と医療⑤

 「疾患と航空機の搭乗条件」――機内で発生する病気・体調の変化

五味 秀穂 (財)航空医学研究センター所長

五味 秀穂
(財)航空医学研究センター所長

航空機の進歩により、より長時間のフライトが可能となりました。現在では最長15-16時間のフライトも出始めています。より長い時間客室という「密室」の中に居ることになり、機内で体調を崩す方の数も増えてきています。

また航空機がより身近で便利な乗り物になったため、少々体調を崩していても、また慢性疾患を抱えていても、航空機を利用する方々が多くなりました。その結果機内で病状を訴える方も増えてきています。

表1に、某大手航空会社の機内で発生した急病人の症状を示します。これは客室乗務員が作成する「メデイカルフォーム(1件1枚)」の数で、このフォームはドクターコールや機内搭載医療キットを使用した時に作成するもので、それなりに症状が重かった例の数になります。またあくまでも客室乗務員が症状を記したものを分類したものであり、正確な診断ではないことをお断りしておきます。

【表1:急病人症状別内訳

ご覧になって分かるように一番多いのは意識消失ですが、これは殆んどが起立性低血圧(立ちくらみ)やアルコール過剰摂取に伴う一過性の意識障害です。中には脳卒中・気道閉塞なども含まれます。2番目は空酔い(乗り物酔い)などの気分不快、3番目が呼吸困難です。この呼吸困難の大多数は過換気症候群です。過換気症候群とは、不安感によって引き起こされる過呼吸で、血中の二酸化炭素が減りすぎてしまい(酸素は充分ある)、手のしびれなどが出現するもので、病気というほどのものではありません。また痙攣(癲癇)も機内では結構多くみられます。

私が全日空の産業医時代、出張でロンドンに行った際、往きも帰りも急病人発生で呼ばれる体験をしたことがあります。いずれもお酒の飲み過ぎで、往きの時はご老人が飲み過ぎて嘔吐し、吐物が気管に詰まって窒息してしまいました。幸い処置が上手くいって無事降機されましたが冷や汗をかきました。その帰り、今度は中年紳士が飲み過ぎて意識を失い、ギャレイ(調理場)に運んで処置し、この方も無事降機されました。機内でのアルコール過剰摂取はくれぐれも気を付けて下さい。

少し前に、カナダから日本に向かう旅客機で、到着寸前に機内出産をした乗客がマスコミで取り上げられましたが、こうしたケースは日本の航空会社では殆どありません。でも欧米の航空会社では、開発途上国から先進国に向かう機内では時々発生します。その大きな理由は、生まれてくるお子さんに先進国の国籍を取らせようと、出産予定日近くにお産のため飛行機で先進国に向かうため、お産が早まって機内で出産してしまうことになるわけです。米国など出生地主義に基づいて国籍を取得できる先進国があるため、こういうことがあるのです。

また以前話題となった所謂「エコノミークラス症候群」ですが、最近はその発生は少なくなりました。2000年のシドニーオリンピックの際、オーストラリアからロンドンまでの長時間フライトの後、若い20歳の女性がこのエコノミークラス症候群で亡くなられ、世界で注目されました。日本ではその後有名なサッカー選手がこの病気に罹患し、注目されるようになりました。名前のようなエコノミークラスだけで発症する訳ではなく、ビジネスクラスでも発症します。基本的には基礎疾患(糖尿病や肥満など)を持っている方が発症し易いと言えます。余談ですが、最近では大地震等震災後に、狭い自動車の中で寝泊まりする方などに発症しています。

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2015年7月7日 up date

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