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▽核と経済の並進路線
金正恩政権の基本政策は、核開発と経済再建を目指す並進路線は2013年3月の朝鮮労働党中央委員会全体会議で金正恩氏が提議した路線だ。「金正恩ドクトリン」とも言える。並進路線は元々、祖父の金日成主席が提案したものだが、内容がことなる。金日成主席の路線は、国防と経済であり、核はなかった。従って金正恩氏の場合は、新並進路線とも言える。
この並進路線は、かつての中国の路線と似ている。中国は、1964年代に初めて核実験をし、これまで45回の核実験を行った。また核弾頭ミサイルの開発に成功し、1970年代に入ると、日米との国交正常化、そして農業請負制の導入などをへて、改革・開放路線に着手した。
金正恩氏も最高指導者に就任すると、2012年に憲法を修正して「核保有国」と明記し、2013年2月に北朝鮮にとり3度目となる核実験に踏み切った。核開発では、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発も間近とされている。
また改革にもすでに着手している。農業部門では農業請負制に似た 「 圃田担当責任制」に踏み切った。これは作業グループを少人数にして、個人の生産意欲を高めようと言うものだ。工業分野でも同様の措置が取られている。
北朝鮮の昨年の穀物生産量は530万トンで、1990年代の400万トンレベルから大幅増産となり、食糧自給率はほぼ100%となった。その背景には、こうした農業改革があったとみられる。
金正恩氏は最高指導者に就いた2012年4月に初めて演説し、国民が「ふたたびベルトを締め直すようなことはさせない」と述べ、国民が再び飢餓に陥ることはないと約束した。
この演説で強調したように金正恩氏は、国民が再び餓死したりすることがなく豊かになることに最重点を置いている。そこが父親の金正日総書記とは異なると言えよう。
経済再建のためには、改革は避けて通れない。だが改革を進めれば、政権自体が危うくなる恐れがある。これは、金正日政権時からの難題だった。金正日政権は東西冷戦の崩壊からスタートしたことから、体制維持が最優先で、軍事優先路線が取られた。
軍事優先路線が確立した金正恩政権の課題は、経済だ。ただ経済再建のために改革を進めるにしても、政権を危うくするわけにはいかない。それを避けるには核を持つしかないと金正恩氏は考えているのだろう。
金正恩氏は、ICBMの開発に全力を挙げており、そのためにさらに核実験を数度、行う必要があるのだろう。
北朝鮮の核開発に強く反発しているのが中国だ。3度目の核実験の際の国連制裁にも同意した。北朝鮮への金融制裁も本格化させ、相次いで北朝鮮の口座を閉鎖、取引停止を開始した。ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮に対して中国政府による独自経済制裁は初めてで、国際社会に「中国の本気度」をアピールしている。取引停止は対外貿易の70%を中国に頼る北朝鮮にとって心理的、経済的な圧迫となる。
さらに今年から中国から北朝鮮へのパイプラインを通じての原油供給は統計上、ゼロとなった。ただ北朝鮮では車がいつもと変わらず走っており、実質的に原油供給を停止したというには疑問がある。
さらに中国とのパイプ役とされていた叔父の張成沢氏が13年12月に処刑されたことも中朝関係の冷却化を加速させた。特別軍事裁判の判決は、張成沢氏が金正恩氏を排除するクーデターを画策したと指摘した。
張氏の処刑後、叔母で金正日総書記の妹の金慶喜氏やマカオに居を構えていた腹違いの長兄の金正男氏は一切、姿を見せなくなった。