NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

曲っていても旬の胡瓜は美味い

古庄 幸一(理事)

お隣さんから朝採りの胡瓜・トマト・茄子等の野菜を頂いた。お隣さんもサラリーマンだけど、近くの畑を借りて趣味で奥さんと野菜作りをしていて、時々旬の野菜を頂く。この日は九月九日スーパームーンの満月と知り、月が東の空に昇るのを待って、月見で一杯と洒落る。もちろん酒は温燗、肴はお隣さんから頂いた胡瓜に味噌を添えた。秋を感ずる微風に酒の香が鼻を(クスグ)る。先輩から「月愛半月、酒呑微燻」と日本的な美学を教わったが、やはり満月は美しい。

(サカズキ)に酒を満たし、澄んだ月の中で餅をついている兎に感謝の気持を込めて、乾盃をする。ゆっくりと味わいながら、曲った胡瓜に味噌を付けて一口かじった。畑で太陽を一杯浴びた、一寸ホコリ臭い昔懐しい味が口一杯に拡がる。皮は自然の硬さがあり、歯ごたえもよく、水々しい。真に忘れていた旬の香りと味だ。

子供の頃は、日が昇る前に、朝露のかかった熟れたトマトや胡瓜を畑に採りに行かされた。夏の朝の食卓には軽く塩揉みした胡瓜が必ず出ていたのを思い出す。今の様に一年を通じて胡瓜が作られていたわけではなく、ましてや真っ直ぐな胡瓜より曲った胡瓜が当り前で、大きさもまちまちだった。今朝お隣から届いた野菜は、この子供の頃食べていた自然の味だった。

今年の夏の天候は例年に比べ降雨量が多く、雨被害が異常な程大きかった。広島県での土石流被害や多くの家屋の浸水が連日のようにニュースで流れた。一方夏野菜も長雨で日照不足のため不作となり、入荷量が減少し値段が高騰して店頭から姿を消していった。そんな中でのお隣さんからの野菜で、「形や大きさは不揃いだけど、無農薬だから」と控え目だったがとても美味しかった。

世界中の色々な国を訪問した時に、日本と違うと感じた事の一つに、野菜や魚貝類の売り方がある。ヨーロッパ、アジア、アフリカどこでも、野菜・果物をはじめほとんどの物が山積みされて店頭に並べてある。客は必要な量を自分で選んで買い求める。日本のスーパーの様に、プラスチックのケースに入れて売っている野菜や果物は見たことがない。大きさや形も色々とあり自然であった。客は積まれた中から自分の手に取って、熟れ加減を確かめる。そして食べる日を頭に入れて、熟れ具合を考えて買う。中には香りを嗅いで籠に入れる人も居る。大袈裟に言うと世界中の多くの人は、今でも動物としての本能を働かせて自分で選んで食べているのだ。

残念ながら我が国では、ハウスの中で油を焚いて季節外れの野菜を作り、形のいい粒揃いの物だけを選別して、箱詰めにして売る。中には遺伝子の組み替えまでして作り替える話しさえある。野菜や果物だけでなく魚貝類までも、自然から遠くなりつつある。新しい物作りと言うより自然を壊しているのではないかと心配にさえなる。

日本の食糧自給率はカロリーベースで約39パーセントと世界の平均より低く、統計上は年々減少傾向にあるらしい。しかし生産の現状から人々が口にするまでのあり方を少し自然にもどす事により自給率も大きく改善されると言う。何も一年中真っ直ぐな胡瓜を食べなくてもいい。その時々の旬の野菜や果物を自然の味で食べる力を取り戻す努力をしてはどうだろうか。

半世紀前までは、賞味期限等と言う表示は無かった。冷蔵庫も無く母親は食しても大丈夫か否か、手で触って臭いを嗅いで更には口に入れて判断していた。残飯はほとんど無く、家庭のゴミも今程ではなかった。今ならまだ間に合う。壊れつつある食文化を、自然に返えすことを考える時だろう。趣味と実役を兼ねて、郊外の畑を借りて野菜作りをするサラリーマンが増えていると聞いた。農家も高齢化して農業を続けていけないために、畑は雑草に覆われている。お隣さんのように土日だけでも、畑を借りて野菜作りを希む人が多くなれば、食の自給率も増え残飯が少なくなる等、色々な事が好転する可能性がある。曲った形の悪い胡瓜でも、旬な胡瓜を美味いと当り前の様に言える日がもう一度来るように。

(平成26年10月20日)

2014年11月26日 up date

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