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賛助会員 小川 忠
(筆者は国際交流基金のジャカルタ事務所長として独自に情報発信をしている)
世界最大のイスラム人口を擁するインドネシアにおいて、中東で発生した政治・軍事・文化的事象は即、国内イスラム教徒の思想と行動に影響を及ぼし、国内問題と化して社会の安定を左右する性質を帯びている。
「東南アジアの多島海(インドネシア、マレーシア他)は中東と密接につながっている。」最近この地理感覚を強く意識させる報道が続いている。いわゆる「イスラム国」をめぐる問題である。日本ではイスラム国の戦闘に加わろうとした青年が公安当局に事情聴取され、日本国内にまでイスラム国ネットワークが拡がっていることへの衝撃の声があがったが、他方インドネシアはどうかといえば、8月時点で既に50人もの青年がシリアやイラクに入ってイスラム国勢力に合流したと言われている。
「イスラム国によるジハード(聖戦)へ参戦せよ!」と呼びかけるユーチューブ映像が自国内に流れていることにショックを受けたユドヨノ政権は、さる8月「イスラム国は多様性の中の統一をうたう国家原則に抵触する」という見解を出して、軍や警察はイスラム国支持者たちの検挙に乗りだした。さらに主流イスラム団体も「イスラム国の暴力的な姿勢はイスラム本来の教えに相いれない」という声明を次々に出して、影響力拡大を抑えにかかっている。(写真:イスラム国支持を訴えるユーチューブ画像)
しかしながら極めて少数とはいえ、イスラム国に共鳴する青年たちがいるのも事実である。過激イスラム組織は、インドネシア政府によって国内での活動を封じ込められており弱体化している。ということはインドネシアでは、物理的暴力によってイスラム国への関与を強要される状況は存在しない。それでもイスラム国に身を投じる若者たちは、その主張、思想に惹かれるがゆえに、自発的にイラクやシリアに渡航しようと試みている。つまり、国際社会から奇怪至極に見えても、インドネシアのごく限られた特定層にとって、イスラム国にはソフトパワーがあるのだ。
今回はイスラム国の主張がいかにしてインドネシア社会に浸透し、その主張はこの国にとって、いかなる思想的意味があるのか考察してみたい。