NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

「イスラム国家」樹立という誘惑

インドネシアがアル・ムハジロンと出会ったのは2005年だ。シャリーア4インドネシア創設者ムハンマド・ファッハリー(Fachry)が、オンライン対話フォーラムでアル・ムハジロンの議論に加わったことに端を発する。この議論に触発されたファッハリーは自身の手で、アル・ムハジロンの英語論説をインドネシア語に翻訳するインターネット情報サイトを立ち上げた。また国内に在する他のイスラム意見交換サイトに参加して、そこでもアル・ムハジロンを喧伝した。こうした流れの延長線上に、シャリーア4インドネシア始動がある。

2000年代とは、世界的にインターネットの普及が進み、国境を越えて多様な情報が(主に英語を通じて)交換されるとともに、一国においてもその国の言語に基づく新たな言論空間という公共領域が拡大していた時代だ。ファッハリーはアル・ムハジロン思想普及のために、内外のイスラム討論グループをつなぐ役割を果たしたのである。

さらにファッハリーは、インターネットのみならず活字メディアによる言論活動に取り組み始め、2007年に『アル・ムハジルン』誌を創刊した。同誌第二号にはイスラム国の先駆けをなす、イラクでのイスラム国家樹立の動きがいち早く紹介されているという。この雑誌によって、彼はさらに広く過激イスラム主義者たちとの人的ネットワークを拡げていったのである。

インターネットを舞台に拡がった過激な行動を是認するコミュニティー。このなかから中東に台頭したイスラム国の主張に共鳴し、イラクやシリアの戦闘に参加する者たちが現れてくる。イスラム国立大学ジャカルタ校出身の活動家バールム・シャー(Bahrum Syah)がその典型例だ。ファッハリーやバールムにとって、「アラブの春」以降激化したシリア内戦は、世界の終末、そしてその後起きるはずの救世主出現を予兆する現象と映った。

2013年初めに、こうした確信に基づいて、彼らは新たに「イスラム法活動家フォーラム」(FAKSI)を結成し、ファッハリーが代表、バールムが副代表・事務局長に就任した。FAKSIの活動目的は、インドネシア社会にカリフ制に基づくイスラム国家樹立の重要性を説くことである。これを実現するための手段が、「アル・ムスタクバル」(Al-Mustaqbal)という新サイト、モスクで行われる公開討論集会である。

バールム・シャー2014年5月26日、バールムは仲間とともにシリアに向かった。すでに何人かのインドネシア人青年がシリア、イラクの戦闘で戦死したとの情報が流れている。(写真:左がバールム・シャー)

(本節は、シドニー・ジョーンズ他の研究者・ジャーナリストが設立した民間機関「紛争政治分析研究所(Institute for Policy Analysis of Conflict)」の報告「インドネシアにおけるISISの浸透」(The Evolution of ISIS in Indonesia)を参照した。同報告は、以下で閲覧可能。

http://file.understandingconflict.org/file/2014/09/IPAC_13_Evolution_of_ISIS.pdf)

以上みてきた通りインターネット普及・英語力の向上・民主化の進展が、この過激思想のインドネシア浸透を生む背景にある。インターネットによって欧州で形成された過激思想が国境を越えて持ちこまれ、英語力を身につけたイスラム知識人によってインドネシア語に翻訳され、民主化によって保証された自由な言論空間において公然と語られる。まさにグローバリゼーションの特性を為す要因が、イスラム国思想の増殖を加速させている。

1 2 3 4 5
2014年11月14日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ