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国際問題コラム「世界の鼓動」

「スコットランド独立は避けられない」

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

スコットランドの独立を問う国民投票(9月18日)が間近に迫りましたね。最近の世論調査によると賛成38%、反対51%(分からない:11%)で、おそらく独立は否決されるであろうと思うけれど、こればっかりはやって見なければ分からない。この際、独立賛成の意見を紹介しておきましょう。ニール・アチャソン(Neal Ascherson)というスコットランド人のジャーナリストがニューヨーク・タイムズ(7月18日付)に寄稿したエッセイです。外国人としてのアメリカ人を意識して書いてあるので、私などにも比較的分かりやすい。見出しがすごい。

スコットランド独立は避けられない

Scottish Independence Is Inevitable

というのですから。さらに書き出しも明確です。

一つだけはっきりしていることがある。それは国民投票の結果がどうであれ、この国民投票のキャンペーンがスコットランドを決定的に変えてしまうということである。9月18日にスコットランドの人びとが賛成票をいれようが反対票をいれようが、この小さな国に何ができるのかということについて彼らの意識が変革されてしまうということでもある。

ONE thing is certain: Whatever the outcome, this referendum campaign is changing Scotland irrevocably. Whether the Scots vote yes or no to independence on Sept. 18, their sense of what is possible for this small nation will have been transformed.

つまり独立が否決されたとしても、この独立推進運動を通じて盛り上がってしまったスコットランド人の自信のようなものはもう止められないということのようです。

独立とまでは言わないにしても、スコットランドに対する権限移譲についての国民投票はこれまでに2回行われています。最初は1979年で選挙によるスコットランド議会の創設に関するものだった。これは僅差で創設派が勝ったのですが、投票率が余りにも低かったので法制化するに至らなかった。次いで1997年には権限が大幅に移譲された議会の設立に関する投票が行われ、設立派が勝って議会ができた。現在、エディンバラにある議会の外側にはユニオン・フラッグとEUの旗と並んでスコットランドの「国旗」が掲揚されている。

そして2014年9月18日に3度目の国民投票というわけですが、是非が問われるのは、カナダやオーストラリアのような英連邦諸国(Commonwealth countries)のような形で英国と関係する国としてのスコットランドである、とアチャソン記者は言う。

今回の投票については独立反対の意見が勝つのではないかとされているのですが、アチャソン記者によると、「独立否決でことが終わってしまうわけではない」(a no vote will not be the end of the story)とのことで、今回の独立推進キャンペーンを通じてスコットランドが変わりつつあることをこの眼でみてしまったということです。スコットランド議会の合計議席数は129、与党のスコットランド民族党(Scottish National Party:SNP)の69議席を筆頭に、以下労働党(37議席)、保守党(15議席)、自民党(5議席)、緑の党(2議席)、無所属(1議席)なのですが、「独立」をはっきり打ち出しているのはSNPのみで、あとは「分権推進」とは言うけれど独立とまではいかない。

アチャソン記者によると、ここ数か月の間で与党のSNPが嫌いだという人の態度が変わってきているのだそうです。

サーモンド(SNP党首)は信用できないし、SNPに投票する気にもならないが、態度を改めざるを得ないと思った。今回は独立に反対票を入れることはできない。

I don’t trust Salmond, and I’d never vote SNP. But I’ve had to re-examine my ideas, and I don’t see how I can vote no.

つまりSNPはイヤだが独立は賛成という人が増えているというわけですが、なぜそうなっているのか?一つには経済面における自信ができたということ。鉄鋼・造船のような重工業が中心だった20年前までは脱工業化後のスコットランドの経済は全くのアウトであろうと思われていた。今では北海油田からの収入をうまく使うことでスコットランド経済は充分にやっていけるという意見が多いとのことで、独立についても「出来るかな?」(Can we?)から「するべきかな?」(Should we?)へと意見が変わっている(とこの記者は言っている)。

アチャソン記者によると、スコットランド政治が「英国」のそれと決定的に異なるのは「保守党嫌い」ということなのだそうです。確かにはスコットランド議会における保守党の議席数はSNPと労働党には遠く及ばない状態であるし、ロンドンの議会におけるスコットランド選挙区からの議員を見ても、合計59のうち保守党はわずか一人だけです。で、保守党の何がそんなに気に入らないのか?記者によると、それはサッチャー流の反福祉国家路線です。多くのスコットランド人にとって、戦後英国の福祉国家(ゆりかごから墓場まで)こそが理想の国家像であったのに、「英国」では労働党までがサッチャー路線にすり寄っている、実に嘆かわしいということです。

スコットランドがイングランドと合併したのは1707年ですが、記者によると、それはまたスコットランドが大英帝国の富のおこぼれ欲しさに独立を放棄した年でもある。それ以来300年にわたってスコットランド人が自分に呟いてきたのは

(独立さえしていたら)良かったのに、何とかして独立さえしていたら・・・

Wouldn’t it be grand if only, if somehow…?

であり、
俺たちはちっぽけで、貧乏で、アホで・・・
We’re too wee, too poor, too thick...

という言葉だった。が、いまやそのような文化的劣等感はほぼ跡形もなく消えたのだ、とアチャソン記者は言います。

そのように考えていくと独立を指向するスコットランド人の心も容易に想像することができる。が、実は独立に反対する人びとの気持ちはもっと容易に察しがつく、と記者は言います。それは独立後の生活ということです。今のような生活水準は保てるのか?年金はどうなるのか?グローバル化する経済の中では巨大な禿鷹たちが闊歩している。そんな中でスコットランドは生き残れるのか?

イングランドのメディアや政治家の多くがスコットランドの独立志向を「反イングランドの差別感覚」(anti-English racism)に取りつかれているのだと考えているけれど、アチャソン記者によると、全く見当違い(exact opposite)なのだそうです。最近のスコットランド人は、自分たちの国のことを考えるので精一杯でイングランドのことなどほとんど忘れている。

イングランドのことなど忘れているということは、イングランド人にとっては苦々しいハナシだろう。彼らは憎まれることには我慢できても無視されることだけは我慢できないのだから。

This is sour news for the English, who can bear being hated but not being overlooked.

スコットランド人の独立志向を反イングランド意識であると決めつけてしまうイングランドの人びとの発想こそが、如何にスコットランドのことが分かっていないかの証拠のようなものだ、と記者は言います。この2月、キャメロン首相が何とスコットランドにおいて政府の閣僚会議を開催したことがあった。首相としてはそのことによって如何に彼がスコットランド想いであるかを示そうとした。さらに4月、財務大臣のジョージ・オズボーンがグラズゴーを訪問して「もしスコットランドが独立したら貨幣としてのポンドは使えない」という発言をした。キャメロンがスコットランド人に対するおべっかを使ったのだとすれば、オズボーンは脅しできたというわけです。ただその結果として起こったのは、独立賛成の意見が増えたということだけだった。

アチャソン記者はまたジョン・メージャーが首相であったころに本人から言われた言葉を想い出しています。それは地方分権が盛んに言われていたころのことで、

分権なんてアホらしい。要するにスコットランド人は疎外されていると感じているということだ。私自身がもっと頻繁にスコットランドへ行くべきなのだ。

This whole devolution idea is loopy. The problem is that the Scots just feel left out of things. I really should go up there more often.

と、これを聞いて記者はどう答えればいいのか、返答に窮したと振り返っている。スコットランド人が思っているのは、国づくりについてイングランドとは考え方が異なるのだから、自分たちのやり方で行きたいということだけなのに・・・ということです。メージャーが上記の発言をした3年後、300年ぶりにスコットランドに議会が設立された。記者によると、あの時点でスコットランドとイングランドの合併を定めた合併条約(Union Treaty)による体制が崩壊し始めた、即ちスコットランドは独自の道を歩み始めたのであって、9月18日の国民投票もそのようなプロセスの一環なのである、というわけで

私自身は独立賛成の票を入れるつもりだ。これまでの活動を通じてはっきりしたことは、この三度目の国民投票で独立が否決されたとしても、いずれ4回目の国民投票があるであろうということだ。スコットランドはスコットランド自身のやり方で世界と関わる時期が来ているということだ。

I shall vote yes this September. The campaign has already taught me that if we don’t make it with this third referendum, there will be a fourth. It’s time to rejoin the world on our own terms.

2014年9月7日 up date

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