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国際問題コラム「世界の鼓動」

イスラム国はアルカイダを凌駕するか?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

6月15日付のむささびジャーナル295号で、「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」というイスラム教の武装組織がイラク北部のモスルという町を占拠したということを書いています。この組織はあのとき急に登場、イラクとシリアの間にスンニ派のイスラム国家を作ることを目指しているということを紹介しました。その後、この組織の活動は一向に収まっていない。どころか英国内のイスラム教の若者がこの組織が展開している戦いに参加、アメリカ人ジャーナリストの記者殺害に手を貸したりという情報が伝わって、何やらとんでもないテロ組織として警戒され、アメリカなどはイラク国内のこのグループを空爆することで壊滅作戦に乗り出している。

最近の報道では「イスラム国」(Islamic State:IS)という名前が使われているのですが、むささびなどにはいまいちよく分からない・・・と思っていたら、ドイツの週刊誌、シュピーゲル(Spiegel)の英文版のサイト(8月23日)にかなり詳しい解説が出ていたので紹介します。この記事はシュピーゲル編集部がアメリカのブルッキングス研究所(Brookings Institution)のチャールズ・リスター(Charles Lister)研究員に聞くという形式で書かれています。それによると、この組織はかつて伝えられていたようなアルカイダの関連組織というよりもライバル組織のようですね。以下はシュピーゲル編集部とリスター氏との一問一答です。今回は余りにも長くなるので全てではなく、数か所は省略しますし、英文はつけないことにします。興味のある方は原文をご覧ください。記事のタイトルは

過激派の決闘:イスラム国はアルカイダを凌駕するか?

Dueling Jihadists: Is the Islamic State Beating Al-Qaida?

となっています。

Spiegel イスム国」(Islamic State:IS)という組織は何やら急に出てきたという印象だが、どのような歴史を持っているのか?
Lister ISの起源はアブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィー(Abu Musab al-Zarqawi)という指導者が率いる組織がアフガニスタンに訓練所を作ったことにある。1999年だから今から15年前のことだ。2001年末にアメリカがアフガニスタンを攻撃したとき、このグループはアフガニスタンを出てイラン経由でイラク北部にたどり着いたのだ。彼らは2003年にはイラクにおけるイスラム過激派運動の主体となっていた。
Spiegel: ISとアルカイダの違いは?
Lister: ISもアルカイダもイスラム教の「シャリーア法」によって統治されるイスラム国家の樹立を目指している点では同じだ。しかしそこへ至る戦術の点で大きく異なる。アルカイダは忍耐強く、長期的な視野に立って社会的な支配と統治を実施しようとしている。つまりまずは社会的・政治的な条件を整えることに力を注いでいる。ISの場合はもっと「短気」だ。ISはある地域を支配すると直ちにシャリーア法を施行して人びとを管理しようとする。この点では2000年代も今も変わっていない。シリアを見れば、ISとアルカイダの戦術の違いが分かる。シリアにおけるアルカイダの友好組織はアルナスラ(Al-Nusra)という名前だが、彼らはシリア国内の社会レベルではかなりの影響力を持っている。しかし彼らはごく最近までシャリーア法を施行しようとはしなかった。その理由は、まだ機が熟していない、社会的な条件が整っていないということだ。そんな状態で施行しようとすると拒絶されるだけだということだ。
Spiegel: アルカイダはISよりも過激でないと言えるのか?
Lister: それは間違いない(Absolutely)。ISに比べればシリアにおけるアルカイダはおとなしいものだった。ただそれも変化しつつあるようだ。アルカイダの下部組織(Al-Nusra:アル=ヌスラ)も自分たちのテリトリーを守ろうというので、イスラム法を厳重に施行するようになっている。
Spiegel: ISは本当に国家を作ろうとしているのか?彼らの活動を見ていると、貧困者に食料を配ったり、老人の面倒を見たりという社会活動に力を入れているようにも見える。国家を作るというよりも既存の政府に取って代わるという感じではないか。それにしてもこれらの活動のための資金はどこから出ているのか?
Lister: ISがほぼ自己資金で活動していることは良く知られている。どのようにしてカネを作るのかと言うと、石油・ガス、農産品などの販売管理(非合法も含む)、水と電力の管理、それと自分たちが支配している地域における税金の取り立てだ。一週間に何百万ドルもの収入があり、それを社会活動に使っている。Islamic State(イスラム国家)という名前のとおり、彼らは「国家」として自分たちの存在を広めている。「国家」であるためには、政府のやるようなことをやらなければならない。例えばイラクのモスル・ダムを一時的に支配したときには、専門家も含めて地元民を雇用したりしていたのだ。正当な給料を払うときもあるし、強制的というときもあるが、いずれにしてもイラクやシリアにおいてはレストランのウェイターからダムの専門技術者まで自分たちの傘下に置くことに成功している。
Spiegel: あなたは、ISのリーダーであるアブー・バクル・アル=バグダーディーはアルカイダのオサマ・ビン・ラディンやザワヒリよりも宗教的な権威legitimacy)があると言ったことがある
Lister: ビン・ラディンもザワヒリもイスラム教の「エキスパート」であるかもしれないが、イスラム教の聖職者としての正式な訓練を受けたことはない。聞くところによると、バグダーディーはイスラム神学者としての博士号もあるし、自分の故郷であるイラクのサマーラにあるモスクの聖職者だったこともある。バグダーディー直属の部下というと軍事・諜報専門家とイラク軍からのプロの軍人などだが、そのような人間をまとめていこうと思えばトップには宗教者を置いておく必要があるだろう。バグダーディー本人は、これと言ったカリスマ性がある人物とも思えない。ということは宗教的な権威があるということだろう。
Spiegel: ISには何人くらいの戦闘要員がいるのか?
Lister: シリアに6000人から8000人、イラクに1万5000人といったところだ。イラクでの人数が増えているのは、このところ地方で武器を持っている人間を自分たちに吸収しているからだ。ISが町へ入ると、彼らは武器をISに献上するか、自らISの戦闘員になるかのどちらかを選択することを要求される。
Spiegel; 聖戦の戦闘員をヨーロッパからリクルートしているが・・
Lister: 最近のISには前代未聞と言っていいほどの数の外国人兵士が参加している。その多くがヨーロッパ出身だ。おそらく2000~3000人がヨーロッパ人だ。ヨーロッパそのもので戦いを遂行するときには彼らの存在は役に立つかもしれない。しかし現時点でそれを望んでいるかどうかは疑問だ。
Spiegel: いま振り返ってみて、ISがここまで伸びることを阻止するためには何をするべきだったのか?3年前にシリア内戦が始まった時点で欧米が反政府勢力の穏健派に武器を与えておくべきであったということか?
Lister: それは国際的にも意見の分かれるところだ。ISは2009年の中ごろにはイラクでの勢力を拡大しつつあったと思う。つまりシリア内線があってもなくてもイラクにおけるISの勢力は今程度にはなっていたということだ。シリアにおける穏健派を武装していればISがシリア国内で「領土」を獲得するようなことはなかったのでは・・・という意見がある。そういうことも言えるかもしれないが、シリアが内戦状態になったこと自体が彼らが拡張する舞台が用意されたようなもので、どのみち何らかの領土獲得はしていたはずだ。
Spiegel: ISは他のイスラム過激派とはどのような関係を保っているのか?
Lister: 極めて薄い(very minimal)。シリアには仲間(allies)と呼べるようなグループはいない。特に大きな過激派組織との関係は薄い。イラクには支持者がたくさんいるが、それは部族グループとかバース党支持者であって武装集団というのではない。ISは自分たちがアルカイダより優越していることを誇示しすぎて、アルカイダを支持・支援する過激派から浮いてしまっているという部分がある。
Spiegel: ISの拡大を止めるために欧米に何ができると思うか?
Lister: ISがここまで拡大と発展が許されてきたということは、拡大を食い止めるには何をやっても時間がかかる。時間だけではない。かなりの資源(resources)が必要ということだ。それも軍事的な意味での資源だけではない。社会、経済、宗教、政治、外交等々、あらゆる分野における「資源」ということだ。それとシリアにおける内戦を一刻も早く終結させること。ISのような組織には内戦は絶好の土台なのだ。そしてイラクにおいては、政府がスンニ派の部族を自分たちの体制に組み入れる努力が必要だ。


Spiegelの記事とは全く別に、英国Independent紙の中東専門記者、ロバート・フィスクが8月31日付のコラムで「イスラム国」とアルカイダの関係について書いているのですが、その中で2011年にアメリカの特殊部隊に殺されたオサマ・ビン・ラディンが殺害される前に書いたとされるメモについて触れています。メモそのものは殺害後にアメリカの特殊部隊が入手したものだとのことですが、その中でビン・ラディンは「あちらにいる我々の兄弟たち(イスラム国のこと)に団結と集団行動の重要性を伝えるべきだ」とか「イスラム教の義務を果たすことがすべてに優先することを伝えるべきだ」などと述べている、とのことです。フィスク記者によると、ビン・ラディンはISの指導性やイスラム運動に果たす役割について疑問視していたとのことです。記者はさらに「アメリカがあそこでビン・ラディンを殺さずに捕捉していれば、もっといろいろと彼の言うことを聞き出すことができたのに・・・」と残念がっている。

2014年9月7日 up date

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