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賛助会員 小川 忠
(筆者は国際交流基金のジャカルタ事務所長として独自に情報発信をしている)
7月9日、インドネシアで5年に一度の大統領選挙の投票が行われた。その結果は22日に総選挙委員会から発表され内外メディアでも報じられている通り、ジャカルタ特別州知事ジョコ・ウィドド氏が接戦をものにした。
今回の選挙において多民族・多宗教国家の共生を危うくするような中傷キャンペーン他、様々な問題が存在したことは否定しようがない。しかし、問題はあるにせよ、2億に近い有権者が一斉直接選挙によって自国の指導者を選ぶ制度が、スハルト政権崩壊後の16年間におよぶ民主化プロセスを経て次第に定着してきていることを、この国の未来のためにインドネシアの人々とともに、まずは寿ぎたい。
そういう感慨が湧くのは、前回のインドネシア駐在時に目撃したスハルト大統領時代の選挙があまりに歪んだ、「偽装」という言葉さえ頭に浮かぶ仕組みだったからだ。
20年以上前に出版した拙著『インドネシア 多民族国家の模索』(岩波新書)において、その非民主的な実態について以下のように書いた。
「インドネシアの国会総選挙は現政権がどう考えても負けないようになっている。まず国会議員の定数は、500人だが、うち100人は軍によって選ばれた委員」
「政党は法的規制によって三党に強引にまとめ、そのためか野党は内紛が絶えない」
「与党ゴルカルの構成母体は、公務員組織、共同組合、労働組合、軍などによって構成されており、翼賛的色彩の強い党」
こうした選挙で選出された国会議員と各州議会選出の代表議員から成る国民協議会が選ぶ大統領は、最初から「スハルトで決まり」だったのである。その時代には公然と大統領を批判することは、もちろんご法度。これと比べれば、弊害は目につくにせよ、公共の場で自由に議論ができる現行民主制度の尊さを改めて噛みしめたい。