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国際問題コラム「世界の鼓動」

インドネシア大統領選とパブリック・ディプロマシー

2014072401 さて今回の大統領候補二人は、まことに対照的だ。まず、決断力ある強い指導者であることをアピールするプラボウォ・スビアント元戦略予備軍司令官は、スハルト大統領の有力経済ブレーンだったスミトロ教授の息子で、性格形成期に海外で育っているのが、強硬なナショナリストと言われる人物の経歴としてはやや意外。スハルト大統領の娘婿となって国軍内で異例の出世を果たしたが、陸軍特殊部隊を使って人権侵害に深く関与したという批判を受けており、脛に傷もつ政治家である。

 かたやジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事は、家具輸出業者からソロ市長に就任し、そこでの業績からジャカルタ州知事選挙にかつぎ出され、大方の予想を覆して現職を破り首都の顔となった。ヘヴィメタル・ロックを好みツイッターにひんぱんにつぶやく、庶民出身の親しみやすさが売りの新世代政治家だ。

以上の通り全く異なる経歴の二人だが、実は選挙公約等を見ると、経済ナショナリズムに訴え、汚職撲滅や教育・福祉の重視という政策面で大きな違いもなく、争点が見えにくい。

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そうした状況では、えてしてメディアを通じて好感度、イメージを競う人気投票的な選挙になりがちである。両陣営がそれぞれの公式フェイスブックに掲載していた候補者の写真をご覧いただきたい。騎馬にまたがる英雄然としたプラボウォはいざという時に頼りになりそうなダイハードなオヤジ、他方ちょっとくずしたチェックのシャツを着こなし、優しく微笑むジョコウィは相談しやすい気さくなオジサンというところか。ハードかソフトか、いずれのタイプの指導者を選ぶかということにとどまり結局、政策議論そのものは深まらなかったというのが、数回に及ぶ討論会を聞いた印象である。

ここで日本のメディアとの比較において程度の違いかもしれないが、違和感を覚えるのが、メディアが特定の候補者に肩入れする「偏向」が著しい状態にあることだ。特にテレビ局においてその傾向が強い。プラボウォ陣営にあるゴルカル党党首がオーナーのTVワンはプラボウォ寄り、ジョコウィ陣営に属するナスデム党党首がオーナーのメトロTVはジョコウィ寄りであることは、両局が自陣営候補者の報道に多くの時間を割き、対立候補は批判的に取り上げるという姿勢からも明らかである。選挙終盤には、「偏向」報道に怒ったジョコウィ支持者がTVワンに押しかけるという一幕もあった。

 新聞も中立的とは言い難い。有力英字紙「ジャカルタ・ポスト」は選挙間際になって、「やむにやまれない状況から熟慮の結果」として「ジョコウィ支持」の異例の社説を掲載した。

今回の選挙では、これまでにない規模でユーチューブ、ツィッター、フェイスブックというソーシャル・メディアが用いられた。ソーシャル・メディアは活用方法次第では社会の民主化を推進する強力な武器となる。ジョコウィがジャカルタ知事選で予想外の勝利を手にした一因には、ソーシャル・メディアを駆使した巨額の予算を使わない草の根キャンペーンがあった。それゆえにソーシャル・メディアは民主主義と相性がいいといわれる。

しかし今回の選挙では、ソーシャル・メディアを通じた双方の誹謗・中傷合戦という弊害も目につく結果となったのは残念なことだ。

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2014年7月24日 up date

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