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国際問題コラム「世界の鼓動」

スコットランド独立:どっちへ転んでもしこりが残る

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)


今年の9月18日、スコットランドの英国(UK)からの独立の是非を問う国民投票が行われることは「むささび」でも何度か紹介したし日本のメディアでもそこそこ伝えられていますよね。「国民投票」と言ってもこの場合はスコットランド人だけが参加するという意味です。

Should Scotland be an independent country?

スコットランドは独立国であるべきか?

という問いに対してYes or Noで答えるのですが、最近の世論調査によると、既に態度を決めていると言う人の間では、「独立すべき」(Yes)が39%なのに対して「すべきでない」(No)は61%と、独立否定の意見が勝っている。

最近のThe Economist誌がスコットランドの独立問題を特集しており、社説コーナーでもトップで掲載しているのですが、その見出しが

Don’t leave us this way

こんなやり方でアタシたちを置いて行かないで!

 

というものです。「アタシたち」とはもちろん「英国」のことです。The Economist誌にしてはパニック風の呼びかけですが、それほどことは深刻ということなのでしょうね。世論調査における反対派優位と言っても比率は6:4、圧倒的多数というわけではない。ほとんど国論二分という感じです。独立派が勝利した場合はさぞや大騒ぎになるのでしょうが、独立が否定されたとしても、その後のスコットランド国内、スコットランドとイングランドの間の感情的なしこりをどうするのかということはタイヘンな問題です。

The Economist誌の記事によると、スコットランド人は昔からイングランドを憎むことで自分たちの存在を確かめようというようなところがあった。スコットランドとイングランドが合併したのは307年前(1707年)のことですが、そのさらに400年ほど前の1320年にスコットランドの貴族たちがローマ法王に宛てた手紙の中に次のようなくだりがあるのだそうです。

我々が100人でも生きている限りにおいては、いかなる条件下といえどもイングランド人たちの支配下に置かれることはござりませぬ。
as long as but a hundred of us remain alive, never will we on any conditions be brought under English rule.

この種の反イングランド意識は現代にも受け継がれており、1960年代にスコットランドの歴史を見直そうという動きの中で、18世紀~19世紀の英国においてスコットランドのハイランド人たちが如何にイングランド人によって苛め抜かれたかという記述が復活したりするということがあったのだそうです。

しかしUnited Kingdomにおいてスコットランド人たちは彼らが主張するほど冷や飯を食わされていたのかというと、必ずしもそうではない。18世紀から20世紀初頭にかけて英国は七つの海を支配する「大英帝国」(British Empire)として君臨したわけですが、1885年から1939年、世界中に散らばる英国の植民地を管理した総督(governors-general)の3分の1がスコットランド人だったのだそうです。当時のイングランドの人口(約3000万)とスコットランドの人口(約400万)の比率を考えると、3分の1というのは確かに大きな数字ですね。

大英帝国華やかなりしころ、スコットランド人独立など考えたこともなかったはずであるが、事情が変わり始めたのが第二次大戦後になって英国が植民地から引き揚げ始めた時期である、とThe Economistは指摘します。さまざまな機関が縮小されたり、解体されたりしたわけですが軍隊もその一つだった。スコットランドから派遣されたハイランド部隊(Highland infantry regiments)が徐々に縮小され、最近(2006年)になって完全に解体された。それに伴って自分たちが「英国人」(British)であるとするスコットランド人の数も1970年の39%から2013年には23%にまで下落した、とThe Economistは言っている。

スコットランドが「英国」の中で本格的に苦闘し始めたのは、1970年代に始まった英国経済の「脱工業化」(deindustrialisation)に乗り遅れたあたりからです。それまでのスコットランド経済を支えてきた鉄鋼、造船などの重工業が海外(日本も含む)との競争に敗れ、経済的に置いてきぼりを食うようになった。これはスコットランドだけのハナシではなく、北イングランドもウェールズも同じような運命に苦しんでいたのですが、スコットランドでは伝統的に社会主義的な勢力が強く、組合運動も盛んであったことで、スコットランドの指導者たちが「社会民主主義スコットランド」を指向するようになり、「自分たちが望む社会民主主義を目指すためには独立するしかないのだ」(only independence can deliver the social democracy Scots want)という発想に傾いて行ったということです。

英国(United Kingdom)は92年前の1922年に当時の構成員(?)であったアイルランドを失っています。今回の国民投票では独立派が勝つことは避けなければならないが、独立反対派が勝利しても小差での勝利ではUnited Kingdomにとっては1922年以来の大打撃であるというわけで、The Economistは次のように呼びかけています。

イングランド人たちの思い上がりと無関心に対してスコットランド人の怒りが増す一方で、イングランド人は、スコットランド人たちの泣き言とタダ乗り的態度に対して反感を持つようになってしまい、今回のスコットランドの独立キャンペーンは、極めて険悪なものになってしまった。それを葬り去るためにはスコットランドの英国残留が圧倒的多数で勝利するしかない。

The campaign has been a bad-tempered one, marked by growing Scottish anger at English complacency and indifference while English resentment of Scottish whingeing and freeloading has risen: only a strong vote for the union will bury this issue.

2014年7月14日 up date

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