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賛助会員 小川 忠
(筆者は国際交流基金のジャカルタ事務所長として独自に情報発信をしている)
さる5月、当地メディアは、世界銀行が発表したGDPの国際比較プログラム(ICP)について報じていた。インドネシアが世界経済大国トップ10に仲間入りしたという。
世銀発表とは、各国通貨の購買力平価を算定した国内総生産(GDP)比較である。経済学専門家の説明では、購買力平価は、その金額で買える財やサービスをより直接的に表すので、為替レート換算よりも実態に近い形で各国の経済力を国際比較できるそうだ。
一国総体としての経済力は、その国の政治力、軍事力の基礎となる。ということから、この統計はこれからの世界がどうなっていくのか未来予想図を描くための、一つの参考材料として意味のある統計と思われる。世銀統計による2011年時点での「12大経済大国」の順位を以下に示す。
順位 |
国名 |
購買力平価 GDP* |
世界累計 GDP比 |
GDPの対米国比 |
|
2011年 |
2005年 |
||||
1 |
米国 |
15,533.8 |
17.1 |
100.0 |
100.0 |
2 |
中国 |
13,495.9 |
14.9 |
86.9 |
43.1 |
3 |
インド |
5,757.5 |
6.4 |
37.1 |
18.9 |
4 |
日本 |
4,379.8 |
4.8 |
28.2 |
31.3 |
5 |
ドイツ |
3,352.1 |
3.7 |
21.6 |
20.3 |
6 |
ロシア |
3,216.9 |
3.5 |
20.7 |
13.7 |
7 |
ブラジル |
2,816.3 |
3.1 |
18.1 |
12.8 |
8 |
フランス |
2,369.6 |
2.6 |
15.3 |
15.0 |
9 |
イギリス |
2,201.4 |
2.4 |
14.2 |
15.4 |
10 |
インドネシア |
2,058.1 |
2.3 |
13.2 |
5.7 |
11 |
イタリア |
2,056.7 |
2.3 |
13.2 |
13.1 |
12 |
メキシコ |
1,894.6 |
2.1 |
12.2 |
9.5 |
*単位:10億米ドル
確かにインドネシアは2005年と比べるランクを5つ上げて、世界10位に食いこんだ。それにしても、この統計は、ちょっと驚きの数字だ。
米国が世界一の経済大国であることは変わらない。しかし、GDPの対米比を見ると、中国は2005年の43%から2011年の86%と、倍の数字をはじき出し急激に力をつけてきていることが分かる。将来、中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になるという予測はこれまでにも語られてきたが、その日が来るのは予想よりも早く、世銀は今年中にも中国が米国を追い抜くという見通しを語っている。
また中所得6大国(中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシア、メキシコ)が世界のGDPに占める比率は32.3%で、高所得6大国(米国、日本、ドイツ、フランス、英国、イタリア)は32.9%と僅差であることも注目に値する。地域的な視点で見ると、中国とインドを含むアジア太平洋が世界のGDPの30%を占めるに至っていることも世界史的な意義があるように思える。長く数世紀にわたって欧米(20世紀からは日本も加わり)が世界経済を動かしてきた時代は終わり、経済多極化の時代に入っていること、そして世界経済の動力源は、米国と欧州を結ぶ大西洋から、アジア太平洋へとシフトしつつあることを実感する。
日本は長く、米国に次ぐ世界第二位の経済大国の位置にあり、一時期は米国をも凌駕するのではないかと予測されていた時代もあった。しかし、21世紀の国際関係の多極化潮流にあって、相対的な地位の低下に直面している。購買力平価GDP比較では、今やインドにも抜かれて第4位なのである。12大経済大国のなかで、2005年から2011年においてGDP対米比を低下させたのは、英国と日本だけであることも気がかりな材料の一つだ。
もちろん現在の潮流が未来に続くかどうかは、議論が分かれる。中国経済は実体の伴わないバブル経済、という見方もあり、経済成長が止まった時、中国はどうなるのかを考えてみると、単線的に日米欧の没落、中国の台頭を語るのは性急すぎるといえよう。成長著しかったインド、ロシア、ブラジル、そしてインドネシアでもここに来て変調の兆しが見られる。とはいえ、大きく世界は変わりつつあることは確かであり、そのなかで日本とインドネシアの関係も見直していかなければならない時期にきているのではないだろうか。