NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

いまイラクで起こっていること

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

イラクがおかしくなっていますね。6月12日付の朝日新聞のサイトには、

イラク北部の主要都市モスルで、国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が軍や治安部隊を追い出し、市全域を占拠した。

というニュースが出ているのですが、同じ日付の英国誌、Prospectのサイトには中東問題の専門家のロバート・フライ(Robert Fry)氏が”Iraq Crisis: Mosul is just one battle in Islam’s civil war“(イラク危機:モスルの戦闘はイスラム教の勢力同士の内戦なのだ)というエッセイを寄稿しています。

筆者によると、モスルの占領を伝える報道の多くがISIS(Islamic State of Iraq and Al-Shams)とアルカイダの繋がりに重点を置いているけれど、今回の戦闘はアルカイダとは無関係であり、あくまでもイスラム勢力同士の「内戦」(civil war)と見るべきであるとのことです。

2003年に米英軍がイラクを民主化するという目的で攻め込んだけれど、そのことによって実際には自分たち(欧米)には理解不可能な力を解き放ってしまった。トニー・ブレアもジョージ・ブッシュもスンニ派の独裁者・サダム・フセインを追放すれば民主化が達成できると思ったことが間違いで、実際にはスンニ派を追い出してシーア派による別の専制国家を作り上げてしまったのだということです。それに対して、中世のオットーマン帝国の時代からこの辺りを支配してきたスンニ派が再び権力を握ろう戦闘を仕掛けてきたとしても何の不思議もないというわけです。

イラクという国は人口の6割がシーア派であり、マリキ首相自身もシーア派です。彼はスンニ派に占拠されたモスルを何としてでも奪回しようとするはずです。彼がこれに成功すれば自身の地位は大いに強化されるけれど、万一これに失敗すると、中東におけるシーア派とスンニ派の間の「新しい冷戦」(a new cold war)が始まることになる、とフライ氏は主張します。

ISIS勢力は隣国シリアで訓練され、武器もシリアの反政府勢力に提供されているのだそうですが、彼らの活動もまたスンニ派の資金によって賄われている。その一方でアサド政権はシーア派のイランの支援を受けている。ISISが狙っているのはイラクとシリアの国境地帯にスンニ派の国家を作り上げることだそうで、噂ではカタールやサウジアラビアからの資金提供を受けている。

ロバート・フライによると、これは一種の宗教戦争であり、数年や数か月で片が付くものではないし、欧米が口出しすべき事柄でもない。もし欧米が干渉しようというのであれば、最後の最後までこの宗教戦争に付き合う必要がある。いかなる和平工作であれ、それはイスラム・コミュニティの内部で行われなければならないということです。

この争いはどちらかが相手よりも相当に優位な情勢にならない限り和平交渉の可能性も低いわけですが、

心配なのは、この戦争が代理同士の争いではなく、国家間の戦争になる日がくるかもしれないということである。

But the worry is that one day, this war might not be fought between proxies and surrogates. It might be fought between nation states.

とロバート・フライは言っています。例えばシーア派のイラク、シリア(アサド政権)、イラン対スンニ派のサウジアラビア、カタールが国として戦うという構図です。

2014年6月16日 up date

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