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国際問題コラム「世界の鼓動」

防災文化を定着させるために

 他方、宗教が防災意識の足かせとなっている側面もある。

アチェから防災コンペに参加した女子学生ジェイハン・マイサラーさんは今、壁にぶつかっている。環境問題、防災の社会啓発に取り組んでいるのだが、地域住民の反応がよくない。多くの敬虔なイスラム教徒であるアチェ住民は、「自然災害は自然の法ゆえに、神の意志によって発生するもの」「それを人間が防災対策によって抗っても仕方ない。我々にできるのは、ただ祈ることのみ」と考えており、防災訓練に参加してくれないのだという。「津波は、神をないがしろにすることへの天罰」という言葉が防災ボランティアに浴びせられることもあるという。

このような状況を鑑みると、アチェ社会には防災文化が定着していないのであり、その原因の一つは、頑迷なイスラム崇拝にあるという見方もできる。

 イスラムだけの問題ではない。キリスト教、仏教など他の世界宗教の歴史においても、大災害が発生する度に、「天からの災いである天災は、神の人間に対する怒りである」という声がくり返し湧きおこってきた。日本の災害史をふりかえってみると、日本もその例外ではないことは明らかだ。

 このような世界の各地で太古から説かれてきた「災害=天罰」認識を改めて、人びとの意識を変えていくにはどうしたらいいのか。

 ここで重要になってくるのは、宗教が人びとの行動を束縛しているのならば、それを解き放つことができるのも、やはり宗教であるということだ。イスラムの教義そのものに防災の教えがあると解釈していく力が求められている。

 そうした試みが、すでにイスラム世界で行われている。インドネシアと同じく地震多発イスラム国イランに所在する地震工学研究所の科学者ガーフォリ・アシュティアニィ教授が、イスラム教義による防災の社会啓発活動に関する論文を発表している。

http://idrc.info/fileadmin/user_upload/idrc/former_conferences/idrc2008/presentations2008/

GhaforyAshtiany_Mohsen_View_of_Islam_on_%20Earthquakes_Human_Vitality_and_Disaster.pdf

 彼のイスラム解釈を要約すると、防災はイスラム教義において以下のように位置付けることができる。

不断の努力により、神が定めた自然の法則を認識し学び活用することを、神は人間に求めている。それゆえにイスラムは科学を重視するのである。科学を通じて地震メカニズムを研究し、防災に活用していく道をいくか、これを怠る無明の道を歩むか、神は人間の自由意思に委ねている。

第二回「日本・インドネシア防災教育 若者コンペティション」授賞式に出席した大学生たち インドネシアにおいても、イスラム化が進行する社会において影響力を増しているイスラム知識人の予備軍である大学生たちは、科学技術や防災に関する知識と、イスラム教義を解釈する力によって、防災文化をこの国に根付かせていく担い手として、これからの活躍が期待できるのである。彼らが日本訪問で何を学んでくるのか、早く帰国報告を聞きたい。(写真:第二回「日本・インドネシア防災教育 若者コンペティション」授賞式に出席した大学生たち)

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2014年3月28日 up date

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