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国際問題コラム「世界の鼓動」

W杯ブラジル大会とサッカー異変

清本 修身(事務局)

 世界のサッカーファンが待ち望んでいるワールドカップ・ブラジル大会が今年6月―7月に迫った。今回はW杯20回目の節目の大会で、サッカー王国ブラジルでの開催とあって、ひとしおの盛り上がりを見せそうだが、サッカー界にも経済の不況風が忍び寄り、少し異変も起きている。

ブラジルは過去5回の最多優勝記録を誇り、神格化されているペレを生んだ国で、国際大会ともなれば、すべての社会機能がマヒするほど、多くの国民は熱狂的なサッカー熱に酔いしれる。それを象徴する事件として有名なのはやや時代を遡るが、1950年のブラジル大会だ。リオのマラカナン・サッカー場で行われたウルグアイとの決勝戦で、先制点をとったものの、敗退したため、場内に溢れんばかりにいた10数万人の観客が大騒動となり、敗北から自殺やショックで4人が死亡、20人以上が失神する事態となった。

この事件は「マラカナンの悲劇」として語り継がれているが、当時のブラジル代表チームのユニホームは白で、この悲劇以来、今日おなじみの黄色に変わったという経緯がある。事件に関連してもう一つのエピソードもある。この時、9歳だったペレはやはり敗北に落胆する父親を見て「悲しまないで。僕がいつかブラジルをW杯で優勝させてあげるから」と励ましたという。ペレはその約束通り、最年少出場して初優勝した1958年大会以来、3回の優勝の立役者となった。彼は20数年の選手生活で、1200得点以上を記録し、その存在の偉大さは「王様」の名をほしいままにして歴史に刻まれている。

それだけにこの国では、サッカーはまるで国技のようになっているが、今回の大会ではW杯開催反対のデモがしばしば発生する異常事態となっている。ブラジルは近年「BRICs」と呼ばれる経済成長の著しい新興国の仲間に入っているが、国民の経済格差は大きく、インフレの高進もあって一般市民の生活は一層苦しくなっている。国民には巨額の公共投資が注がれているW杯より、自分たちの生活をまず守ってほしいという思いが強まっているのである。

それでも、むろんW杯が始まれば、国民は否応なしに熱気に包まれるだろうと見られているが、心配はもしブラジル・チームが不振であれば、生活の不満も重なって大混乱が起きる可能性があることだと観測する向きが多い。

ペレは現役時代、報酬の高い本場欧州の強豪チームから再三の勧誘を受けたが、いずれも断っている。その欧州のサッカー界だが、2008年のリーマンショックに続くユーロ危機で、この数年欧州の名門チームでさえ、かなり厳しい財政難に陥っている。イタリアのACミランは膨れ上がる負債の削減に必死で報酬の高い選手を相次いで手放し、代わりに本田圭佑選手を手に入れたが、これも実は移籍金を払わずにすむよう同選手のモスクワチームとの契約切れを待ったうえのことだった。スペインでも人気の高いレアル・マドリードやバルセロナも赤字経営に陥っており、同国のサッカーリーグ全体では約3800億円の赤字だという。英国ではプレミア・リーグ20チームのうち半数はロシアの石油王など外国資本家の所有になっている。

欧州経済で独り勝ちとされるドイツは例外だが、どうやら長引く経済低迷でかつてのような欧州のサッカー・バブルは去りつつあるようである。

2014年3月28日 up date

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