NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

台湾学生の立法院占拠

理事長 池田 維

(元交流協会台北事務所代表 元外務省アジア局長)

台湾学生の立法院占拠という事態は台湾史上初めてのことであり、その政治的意味合いは極めて大きい。

3月 18日の学生たちの議会占拠からはじまった台湾・馬英九政権への抗議活動は、 30日、学生の呼びかけに応じ、一般市民が参加した形の大規模デモに発展した。その数は当局側の発表によれば 11万人強、各種メディア等は 30万人前後と推定している。

これまで、台湾では、例外的なケースを除き、学生たちはよく勉強するが基本的に「ノン・ポリ」で、政治的行動を行わないと思われてきた。その学生たちが立法院(国会)の占拠、また一時的に行政院(内閣)の占拠の挙に出たことは、台湾社会において強い驚きをもって受け止められている(行政院からは、強制排除されたが、立法院ではそのまま占拠がつづいている)。

立法院占拠が既成の政党によるものであれば、ここまで台湾社会の多くの人々から理解や支持を得ることはなかったであろう。アンケートなどを見れば、多数の台湾人が総統と学生の対話による解決を望んでいることがわかる。たとえば、 52の大学総長たちが連名で対話による解決をよびかけた。そして、最大野党民進党は学生たちを側面支援するにとどまっているように見える。これら青年たちの主張は、つまるところ、台湾が中国に接近する場合、台湾としてはどこに一線を引き、どのような距離を取るのか、という問題意識から出ている。

いまのような中国との関係を続ければ、ずるずると中国の狙う方向に進み、中台関係はやがて取り返しのつかない状況に陥るのではないかとの危機意識が強まっている。

この取り決めの内容詳細は良く知られていないが、これを締結すれば、サービスを始めとする台湾の弱小産業が痛烈な打撃を蒙り、中国人が容易に台湾に移住できるようになる、との見方が広まっている。サービス貿易取り決めの批准はそのカギを握る里程標ということになる。

中国側は台湾との関係を早期に経済関係から政治関係に移行させたいとの思惑をもっており、先日の台湾側大陸委員会主任と中国側台湾弁公室主任委員の間の閣僚級会合はそのための一歩でもあった。中国から見れば、これまで 16件にわたる中台間取り決めはいずれも、当局間で署名が行われ、あとで台湾議会によって修正されるということはなかったので、今回についても台湾議会による逐条審査など受け入れることを拒絶するとの立場である。

今回の議会占拠の事態を見て大きな衝撃を受けているのは、中国自身ではないかと思われる。中国は「中華民族の復興」の名のもとに、台湾人を「一家人」と呼び、中国の不可分の一部として統合・吸収することを目指してきた。今回の事態を受けて、人民日報系の「環球時報」は「台湾の民主主義の恥部が露呈した」などと口汚く非難しているが、これはまだ控えめな表現だろう。

台湾学生たちの議会占拠は中国人には反射的に 1989年の「天安門事件」を思い起こさせるにちがいない。今回の台湾での事態は、いわば、学生たちが天安門広場に面した「人民大会堂」を占拠したようなものである。武力弾圧という中国で通用したやりかたは台湾では全く通用しないばかりか、台湾の指導者は彼らと対話することによって解決策を見出そうとしている。中国にとっては台湾の民主的諸制度が自分たちの制度と如何に異なっているか、そのような台湾をはたして併呑など出来るのか、と改めて考えざるを得ないだろう。

台湾における議会占拠の事態は膠着状況を示しており、今の段階でいかなる解決策が馬英九政権から出てくるのか、見通すことは難しい。支持率 10%程度で低迷している馬英九にとっては強硬策をとることは大きなリスクを伴うこととなる(地方選挙が控えていることに加え、行政院からの学生排除は、死者こそ出なかったが、かなりの数の負傷者を出し、非難された)。他方、学生側の要求(サービス貿易取り決めの逐条審議および撤回、中台関係を規律する監督条例の国内立法化)に譲歩すれば、ただちに中国の威圧的姿勢に直面することとなるだろう。

馬政権にとって、さらに痛手となっているのは、王金平国会議長の国民党籍剥奪については、地方裁判所が最近これを無効としたため、議会秩序の回復に王金平の力を使うことが出来なくなったことであり、また、王に関連した機密情報の取り扱いにつき、黄世銘検事総長が地方裁によって有罪判決を受け辞任したこと、などである。

目下、全体として与党国民党内部においても、足並みの乱れが目立ち始めており、馬英九政権は苦境に立たされている。

2014年4月2日 up date

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