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このコンペの授賞式に集まった24名の大学生たちと語りあうと、いかに彼らが直面している課題が多様であるか、に驚かされる。地震、津波以外にも、火山の噴火、集中豪雨による地滑り、都市部の洪水など想定した防災活動が作品のなかに描かれている。これら課題に対応する取り組みも、身体障害者や子ども、老人などを対象にした避難訓練、マンガやキャラクターを使った防災教育、地域住民とのコンセンサス作りなど多様だ。あらためてインドネシアが「自然災害のデパート」と呼ばれるゆえんを再認識する。
さらに特筆すべきは、我々選ぶ側の心を揺り動かしたインドネシア青年たちの社会奉仕意識の高さだ。彼らの内面にあって、信仰が責任感、自己規律へのエネルギー源になっていることを、ひしひしと感じる。
たとえば、2004年インド洋大津波で壊滅的被害を受けたアチェから、昨年、今年と優秀グループが選ばれている。被災地ゆえの防災意識の高さをもちろん感じるが、そもそもアチェは厳格なイスラム社会としてインドネシアでも有名な地で、この地を代表する高等教育機関である国立イスラム大学アチェ校は、近代科学技術とイスラム的価値の両立を目指す近代的イスラム指導者の育成に力を入れている。今回授賞式に出席した学生の数名は、同校に通う青年たちだ。
また、バンドンから選ばれたチーム「コルサ2」は、大学キャンパスにおける宣教活動「ダッワ・キャンパス」の、そして90年代においてはインドネシア民主化運動の、拠点となったバンドン工科大学サルマン・モスクの学生ボランティア・グループである。
インドネシア・イスラム研究者の見市建氏によれば、サルマン・モスクの中では、「イスラームの基本的な教義や概念以外に個人としての道徳性、家族と社会の中におけるムスリムとしての役割が重視され、つまりは社会的なコミットメントの重要性が強調されている」という。欧米社会の社会貢献活動の背骨にキリスト教の教義が重要な要素として存在するのと同じ機能をイスラムが果たしているのである。
サルマン・モスクに集う学生達は、「イスラムは狭い意味における宗教に限定されるのではなく、生活のすべてに関わる包括的なシステムである」という考え方に基づいて、貧困層に対する医療、教育、小規模資金貸付の提供などを通して、教育の重視、科学・技術の社会普及を目指している。すなわち、イスラムという宗教が、災害からの復興や防災に強い社会を構築していくための社会資本となっているといえよう。