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現在、インドネシア経済において注目すべき動きが生じている。イスラム金融が拡大しつつあるのだ。この動向を語る前に、まずイスラム金融とは何か、を解説しておきたい。
イスラム金融の特徴は、①利子の概念を用いない金融、②取引相手がイスラム教義に反する事業(豚肉、アルコール、武器、賭博、ポルノ等)に関わっていないこと、の2点が挙げられる。(国際金融情報センターレポート 2006年9月8日)
イスラムの聖典コーランには、「アッラーは、商売を許し、利息(高利)を禁じておられる」(2:275)という記述がある。「イスラーム世界事典」によれば、コーランが利子を禁じたのは、預言者ムハンマドの時代に行われていた高利への批判がその背景にあるらしく、今日のイスラム世界では「利子は不労所得であり、搾取を生み、貧富格差を拡大する」という理由からその取得が禁じられているという。
しかしムハンマドが生きた7世紀のアラビア半島社会に課された掟を、そのまま今日の高度に発達した経済社会体制に敷くのはいかにも無理がある。そこで考え出された、利子という概念を使わない預金、ローン、保険、ファイナンス、投資ファンド等の金融制度が、「イスラム金融」である。
例えば、「ムダーラバ」という信託金融は、出資パートナーから集めた資金によって事業者は事業を行い、その配当は契約時にあらかじめ決められた(利子のような)比率に応じて分配される。事業に失敗した場合は、資金を提供したパートナーによって負担される。
また「カルド」と呼ばれる無利子融資は、銀行が顧客の所有する金を担保として預かり、市場価格に応じた金額をその顧客に融資する。利子の代わりに金の保管・運用サービス料を受け取り、融資が完済されたら、金を顧客に返還する。中央銀行によれば、カルドによる融資額はこの5年間で4割も増え、イスラム金融の8%を占めるという。
イスラム復興現象が起きた1970年代にイスラム世界各地においてイスラム金融を扱う銀行が創設されたが、インドネシアに導入されたのは90年代に入ってからだ。1992年に銀行法が改正され、インドネシアで唯一のイスラム銀行として「インドネシア・ムアマラット銀行」が開設された。スハルト体制崩壊とその後の混乱が落着きを見せた2002年以降、イスラム銀行の数と貸出額は急拡大し、2002年から2004年には資産の伸び率が毎年70%を超えていた。2008年には「イスラム銀行に関する法律」が制定され、イスラム金融に関する法整備が進んだ。