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国際問題コラム「世界の鼓動」

第一次世界大戦は「正義の戦い」だった?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

前々回のむささびジャーナルでお伝えしたとおり、今年の英国で大きな話題となるものの一つに第一次世界大戦開始100周年があります。BBCの特集番組情報を見ても、政府主催の行事を見ても、大いに盛り上がっているのですが、そもそも第一次世界大戦とは何であったのか?についてもさまざまな意見がメディアを賑わせています。

発端となったのは1月2日付のDaily Mailに掲載されたマイケル・ガブ教育大臣による

なぜ左翼たちは真の英国の英雄たちをバカにしたがるのか?

Why does the Left insist on belittling true British heroes?

という寄稿文で、第一次世界大戦は「ドイツの侵略と戦う正義の戦争だった」(a ‘just war’ to combat German aggression)ということが基本的なメッセージとなっている。大臣によると、この戦争はドイツの特権階級が推進した弱肉強食主義に基づく拡張主義に対する戦いであったというわけで、

この戦争について、個人個人がどのような結論を引き出そうと自由であるということ自体が、戦争で戦った男たち、女たちの勇気の直接の成果であると言えるのだ。彼らこそが英国における特別な伝統である自由のために戦い、自由を信じた人たちであるということは憶えておこうではないか。

it is always worth remembering that the freedom to draw our own conclusions about this conflict is a direct consequence of the bravery of men and women who fought for, and believed in, Britain’s special tradition of liberty.

と言っている。なのに・・・大臣に言わせるならば、英国では左翼的知識人たちがよってたかってこの戦いをバカにするような言論を広めている。その代表的なものが第一次世界大戦中の西部戦線を舞台にして、ミスター・ビーンのR・アトキンズが主役を務め1980年代に大ヒットしたBlackadder(ブラックアダー)というコメディであると文句を言っている。

ガブ大臣によって第一次大戦をバカにしていると罵倒されてしまった「左翼知識人」の代表格とも言えるケンブリッジ大学のリチャード・エバンズ(Richard J Evans)教授は1月6日付のGuardianの中で「マイケル・ガブは歴史に対する無知をさらけ出している」(Michael Gove shows his ignorance of history)とするエッセイを発表、この戦争が自由を守る正義の戦いであったと主張する大臣に反論しています。

第一次大戦は、基本的には英国、フランス、ロシアの3国が共同で、台頭するドイツ帝国を相手に戦った戦争であるわけですが、エバンズ教授は、英国が同盟国とした当時のロシアはニコライ2世皇帝の支配下にあり、ドイツ皇帝などよりはるかに専制主義的だったこと、さらに当時の英国自体、成人の40%に選挙権が与えられていなかったのにドイツでは国の選挙には成人男性のすべてが投票権を与えられていたこと等々を考えても、これが必ずしもガブ大臣が言うような善玉が悪玉を倒す「正義の戦い」ではなかったことは明らかと言っている。教授に言わせると「ガブ大臣こそ専門家から歴史の授業を受けた方がいい」(Gove should attend some history lessons taught by the professionals)のだそうであります。

このような激論が続いている中で1月25日付のObserverが、教育省ではガブ教育大臣の下にいる、児童福祉担当のエリザベス・トラス(Elizabeth Truss)という副大臣が下院において

教師は、第一次世界大戦についていろいろな考え方があるということを生徒たちに伝えるべきであり、どのように教えるかは教師次第だ。

Teachers should inform pupils that there are varying views on the conflict, and that it was up to teachers to decide how they taught the subject.

と発言したと伝えていました。英国の場合、閣内大臣のことはSecretaryと呼ぶのですが、大臣の下には担当別の「大臣」(Minister)がいる。Ministerの方は、Secretaryの下に来るのだから「副大臣」と言うのが適切かもしれない。ガブもトラスも選挙で選ばれた政治家です。教育大臣のマイケル・ガブは1967年生まれの46才、児童福祉を担当するトラス副大臣は1975年生まれの38才。両方とも第一次どころか第二次世界大戦だって知らない世代です。ガブ大臣もトラス副大臣もオックスフォードの出身です。

2014年2月11日 up date

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