NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

「選挙で勝てば」ガス・電気料金は凍結・・・

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

英国では次なる総選挙が2015年5月に行われることが決まっていますが、今年の9月末から10月初めにかけて主要政党の大会が開かれ、それぞれが次なる選挙を意識して政策提言を行っています。良くも悪くもこれまでのところ最も注目されているのが、労働党のエド・ミリバンド党首が提唱したエネルギー料金の凍結案です。9月24日の大会で発表されたもので、次なる選挙で労働党が政権に就けば、最初の20か月間は電気・ガス料金を凍結すると約束した。ミリバンド党首によると、この政策が実施されると典型的な家庭にとって年間120ポンドの値下げということになるのだそうです。

英国の場合、British Gas、EDF、E.ON、npower、Scottish Power、SSEが6大エネルギー供給会社(utilities)で、どれも電気とガスの両方を消費者に提供しています。もし労働党が政権を奪取してミリバンド党首の約束通りの料金凍結を実施したとすると、6大企業全体の損失は45億ポンド(約6000億円)程度と言う人もいるし70億ポンド(約9000億円)という人もいる。

英国ではガス代や電気代が高すぎるという不満がある。The Economistによると、過去3年間で30%も値上がりしたのだそうですね。30%というのは大きい。原料代が上昇すると直ちに料金の値上げがあるくせに、原料の価格が下がっても料金に反映されるまでに余りにも時間がかかり過ぎるという声もある。つまり企業が「儲けすぎている」(profiteering)というわけです。

ただThe Economistの指摘によると、英国の電気料金は他のヨーロッパ諸国と比較してもそれほど高いわけではない。eurostatの資料によると2012年における100キロワット/時の電気料金は英国が17.9ユーロで、EU全体の平均(19.7ユーロ)よりは安いし、デンマーク(29.7)、ドイツ(26.8)、ベルギー(22.2)のように英国よりも高い国も結構ある(フランスは14.5ユーロでかなり安い)。

ミリバンド党首による価格凍結策について、エネルギー企業は(当たり前ですが)カンカンに怒っておりまして、そのような政策を実施すると、失業は増えるし停電は起こるしで、大変な混乱を引き起こすと言っており、British Gasの親会社である多国籍企業のCentricaなどは「英国を引き揚げる」(to leave the country)と脅しみたいなことを言っている。

The Economistによると、英国の発電事情は案外楽でないようですね。エネルギー・気候変動省の数字によると発電エネルギー源の中でも最も大きな比重を占める石炭火力発電所の中で間もなくオフラインになるところがあるのですが、それに代わるものが足りないというわけで、来年(2014年)の冬あたりから約3年間は発電能力がかなりきついものになると予想されている。そのためにも発電業界に対する投資が必要なのですが、それがミリバンド発言によって水を浴びせられたような雰囲気になっている。

2013年10月7日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ