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国際問題コラム「世界の鼓動」

アイルランド大飢饉とThe Economist

“Money….”の著者であるフェリックス・マーティンによると、ロンドンの政治家や官僚たちは、アイルランドが「全滅」と報道されている事態にも関わらず、アダム・スミスの経済理論についての抽象的なディスカッションを続けており、The Economistは翌年になっても、政府不干渉の原則を主張し続けた。

結局、この大飢饉によって100万人が餓死、100万人がアイルランドを捨ててアメリカやイングランドに移住した。つまりアイルランドは200万人もの人口を一挙に失ったのですが、これは当時のアイルランドの人口の3分の1にあたる数字なのだそうです。

フェリックス・マーティンはこのエピソードを、アダム・スミスの経済原則(人間が自分の利益を自由に追求していくことで全体として豊かになる)にこだわったThe Economist誌や当時のロンドン政府の指導層に批判的なトーンで書いているのですが、当時のオックスフォード大学で政治経済学を教えていた、アダム・スミスの信奉者であったナッソー・シニア(Nassau Senior)という教授が言ったとされる次の言葉も紹介しています。

私は、1848年のアイルランド飢饉による死者が100万人を超えることはないのではないかと恐れている。それだけでは慈善を施すに足るとは言えないからだ。

I fear that the famine of 1848 in Ireland would not kill more than a million people, and that would scarcely be enough to do much good.

フェリックス・マーティンによると、当時は新しい思想であったアダム・スミスの自由主義経済の原則によって、それまで大切とされてきた道徳や政治の世界における正義(justice)という考え方が「客観的な科学上の真実」(objective scientific truths)にとって代わられてしまったわけです。

ところで、この本の中身とは直接関係ありませんが、アイルランド飢饉から150年目の1997年、アイルランドで行われた飢饉の犠牲者を追悼する集会が行われた際に、当時の労働党のブレア首相が声明を発表、

当時の英国政府は自らの国民が、作物の不作によって大いなる人間の悲劇に直面していたにもかかわらず見て見ぬふりをした。

Those who governed in London at the time failed their people through standing by while a crop failure turned into a massive human tragedy.

と述べています。このことを報じるThe Independent紙によると、ブレアさんは当時の英国政府が行った失政について「悲しみを込めて認めて」(he sadly noted)はいるけれど、謝罪はしていないのだそうです。「謝罪」をしてしまうと、あの頃に遡る形での責任(retrospective responsibility)が生じてしまうからなのだそうです。

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2013年9月24日 up date

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