NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

ハエの脳はバカにできない

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

食卓にとまっているハエをハエ叩きでやっつけようとしても逃げられるなんてことはしょっちゅうありますよね。当方としてはかなりの速度でしかも正確に叩いているつもりなのに、です。ダブリンにあるトリニティ・カレッジのケビン・ヒーリー(Kevin Healy)という動物学の教授を中心とする研究チームがAnimal Behaviourという専門誌に発表した論文によると、ハエのような小動物はモノの動きを、人間的感覚からするとスローモーションで見るのだそうです。私が振り下ろすハエ叩きの動きがスローモーションで見えるのだから一撃を避ける可能性が(例えば)人間などよりははるかに高いということです。9月15日付のBBCのサイトに出ていました。

スローモーションで見えるというのを別の方法で言うと、眼が物体の動きを捉えてその情報を脳に送り、脳がこれを解析して「避ける」という動きにつなげる・・・このプロセスが速いという意味でもありますね。ヒーリー教授らの研究によると、ハエの眼が物体の動きを識別する速度は人間の眼の4倍ほどなのだそうです。かないっこない。この種の識別速度は身体の小さい動物ほど速く、象のような大きな動物は全く反対で、ゆっくりした物体の動きもフィルムの早送りのように見えるので、小動物が捉える物体も捉えられないということが起こる。
ところで、人間も含めた生き物が、動いているものを識別する能力を客観的に比較する尺度の一つに「臨界フリッカー融合頻度」(critical flicker-fusion frequency:CFF)というものがあるのだそうです。点滅する光を見ていると、点滅が速くなればなるほど繋がって見える(点灯状態)ようになる。人間の場合、普通の人は1秒間に60回の点滅が限度なのだとか。CFFの世界ではこれを周波数で表して「60ヘルツ」と言う。犬の場合は80ヘルツが平均らしい。つまり1秒間に80回点滅してもそれを「点滅」として捉えることが出来るということです。それに引きかえ、深海で暮らすIsopodというカブトムシ風の生き物の場合は1秒間に4回の点滅以上はすべて「点灯」に見えてしまう。CFFが4ヘルツというわけです。

ヒーリー教授のチームはさまざまな生き物のCFFを比較しているのですが、CFFの周波数が最も高い部類に入るのは、リスとハト(pigeon)で、golden mantled ground squirrelと呼ばれる種類のリスなどはCFFが120ヘルツ、ハトは100ヘルツです。つまりリスの場合、1秒間にライトが120回点いたり消えたりしてもそれぞれを識別できる・・・ということは相当に素早い敵の動きでも目で確認できるということになる。反対に一番CFF周波数が最も低い部類に入るのは、ヨーロッパウナギ(14ヘルツ)、オサガメ(15ヘルツ)、ハナグロザメ(18ヘルツ)などとなっています。ちょっと可笑しいのは tiger beetleというカブトムシで、走ることは速いけれど、CFFがそれに追いついていかず速く走り過ぎて一瞬盲目状態に陥ることがある。そんな時はいったん停止して自分を襲うかもしれない敵の位置を確かめるのだそうです。

今回の研究に参加したセント・アンドリュース大学のグレーム・ラクストン(Graeme Ruxton)が面白いコメントを残しています。

人間よりもはるかに高いCFF周波数で、眼が脳に情報を送っても、脳の方でこれを解析する能力がない限り価値はない。この研究が明らかにしたのは、非常に小さな生き物の脳でも素晴らしい情報解析能力を有しているということが分かったということだ。ハエは深い思想家ではないかもしれないが、物事を決定する素早さは素晴らしい。

Having eyes that send updates to the brain at much higher frequencies than our eyes do is of no value if the brain cannot process that information equally quickly. Hence, this work highlights the impressive capabilities of even the smallest animal brains. Flies might not be deep thinkers but they can make good decisions very quickly.

言えてる!

2013年9月24日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ