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国際問題コラム「世界の鼓動」

石油大国ベネズエラーー故チャベス大統領鎮魂歌 

他方、このように傍若無人ともいえる態度を示されると、反感をもたれるのではないかと思うが、そこではチャベス大統領の天才的な大衆政治家としての人を引き付ける能力が発揮される。来日時も、記者会見に3時間以上も遅れて現れたが、その間記者は辛抱強く待ち続けていた。そして突然現れると、遅れたことを弁解もせず、まずカメラ記者に向かって愛想をふるまき、女性記者を抱きしめて親しく話をし、そして登壇する。待ち続けていた記者たちもチャベス・マジックにかかったかのごとく、何もなかったかのように、記者会見が行われた。こういう場面を見せつけられると、チャベス大統領の人気がその天性の資質によるもと感じたものである。同時に、大統領の長時間の名演説ぶり、政治手法は、個人的に親密な関係を築き、反米主義の盟友でもあるキューバ革命の主人公カストロ氏の昔日を彷彿とさせるものであった。大統領がカストロ氏から多くを学び、師と仰いだのも十分うなずける。

このチャベス大統領は、長期政権を目指し、就任以来2回の憲法改正を行って大統領の再選制限を撤廃し、2021年の独立200年を自分の手で迎えることができるようにした。プロ野球選手を目指したこともあるという立派な体格、圧倒的な人気から見て、この夢の実現はそれほど問題ないのではないかと思われた。しかし、今年の3月に亡くなった。私の在任中にはすでに病魔に侵されていたようで、私の離任直後に自身が癌治療を受けていることが公表された。今から思い出すと、赴任1年目の2008年には10キロの減量に成功したということで、見るからに精悍な感じがあったが、その後また太り始めていた。キューバでの病気治療は順調ということであり、昨年10月の大統領選挙前後には元気な姿を見せ圧勝したが、本年1月の大統領就任式にもキューバからの帰国もかなわず、結局58歳の若さで亡くなるとは、全く予想外の出来事であった。

憲法の規定により、大統領の再選挙が行われたが、チャベス大統領が後継者に指名したマドゥーロ副大統領が勝利した。この再選挙では当初の楽勝予想を覆し、公式発表では1.59%という僅差の勝利であったため、選挙の有効性をめぐって紛糾が続いている。敗れたカプリレス候補は開票再集計を求めて選挙結果を認めていないが、新大統領は頻繁に外遊を行うなど、政権基盤の確立を着々と進めている。今後についてはなかなか予想しがたい。はっきりしていることは、チャベス大統領と言うカリスマ性のある指導者が亡くなったことは、チャベス主義路線をめぐり与野党の対立が激化せざるをえないということであろう。特に大きな困難に直面している経済では、主要産業の国有化推進に象徴的に見られるような急進的ともいえる社会主義路線にも何らかの政策変更がありうるであろう。外交的にも、これまで同様の対米強硬路線が貫かれるかどうか、またいわゆる地域組織アルバ(中南米の反米、左派8か国が加盟)諸国と呼ばれるベネズエラとの関係が深い諸国との関係にも少なからず影響が出てくることも避けられないであろう。今後の動向に引き続き注目していきたい。

(本稿は外務省・霞関会報への寄稿文を加筆修正し、転載したものである)

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2013年9月7日 up date

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