NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

「英中」と「米中」は違う、か?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

skynews-boris-johnson-xi-jinping_49236937月21日付のGuardianの社説が、英国と中国の関係について

英国が香港との犯罪人引き渡し条約を停止したことは、(中国をめぐる)国際情勢の変化を反映したものではあるが、英国とアメリカの利害は必ずしも一致していない

The UK’s suspension of the extradition treaty with Hong Kong reflects an international shift. But British and American interests are not identical

と述べています。

UKChinahongkong犯罪人引き渡し条約(extradition treaty)は、国外に逃亡した犯罪容疑者の引き渡しに関する国際条約で、普通は、どの国であれ、他国からの要求があっても犯罪人を引き渡す義務はないけれど、犯罪人引渡し条約を2国間または多国間で結ぶことで犯罪人の引渡しの義務を相互に義務付けることになる。香港では、最近、中国政府によって反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が施行されたことで、香港で「反政府的」と目される活動をすると「犯罪人」ということになり、香港との間で犯罪人引き渡し条約を結んでいる英国は彼らが英国内に逃げ込んだ場合、香港政府に引き渡さなければならない。

そこで英国のラーブ外相が7月20日に議会で「香港との犯罪人引き渡し条約を直ちに停止する」という声明を発表したものです。つまり中国政府の意に反した方針を打ち出したわけで、それだけ見るとトランプ政府と行動を共にしているようにも見える。が、この社説は「英国とアメリカの利害は必ずしも一致していない」と指摘している。
A実は英国政府が中国に対して厳しい姿勢をとっているのは犯罪人引き渡し条約だけの話ではない。「5G」と呼ばれる次世代の通信規格をめぐって中国の通信機器大手、ファーウェイを排除することを最近になって発表しているし、1997年に香港が中国に返還されるまで香港に住む人を対象に発行していた「英国海外市民(BNO)旅券」の所持者が英国に滞在できる権利を大幅に拡充することも明らかにしている。つまり香港市民の間で英国に移住する可能性が広がったということです。これに対して中国政府は、これらの措置が中国に対する内政干渉にあたるとして非難しているわけです。

一方、アメリカは英国の行動について、最近訪英したポンぺオ国務長官が「英国自身の問題だ」としながらも「よくやった、と我々は思っている」(We think – well done)と口走ったりしている。ジョンソン首相も自分が「無思慮の中国びいき」(kneejerk Sinophobe)にはならないと言っており、そのこと自体は正しい。ただ、Guardianに言わせると、トランプという大統領は貿易交渉で中国から譲歩を引き出すためなら人権問題などでは譲ってしまう可能性は極めて大きい。つまりアメリカとの自由貿易協定が締結された暁には、トランプも、結局、中国と仲直りということになるかもしれない。そんなとき英国はどうするのか?あるいはトランプがホワイトハウスからいなくなった時にはどうなるのか?という疑問は残る。

中英貿易の20年 英国と中国の経済関係はこの20年間で特に伸びているのですね。1999年における英国にとっての輸出先としての中国の重要度は26番目だったのですが、現在では第6位にまで上昇している。製品の輸入元としての中国は英国にとって4番目に重要な国となっている。

中英貿易の20年
英国と中国の経済関係はこの20年間で特に伸びているのですね。1999年における英国にとっての輸出先としての中国の重要度は26番目だったのですが、現在では第6位にまで上昇している。製品の輸入元としての中国は英国にとって4番目に重要な国となっている。

さらにアメリカの対中政策には、英国が追従すべきではないものもあるとGuardianは指摘する。9000万人もいる中国共産党員とその家族への入国禁止などはその一つ。中国のように政党が一つしかない国では、党員になるにもいろいろな理由がある。武漢で最初にコロナウィルスの警告を発した李文亮(Li Wenliang)という医師はは共産党員だったし、ウィグル族の経済学者で社会活動家のイリハム・トフティ(Ilham Tohti)という人物も共産党員でありながら刑務所に入れられている。つまり「共産党員=好ましからざる人物」と限らず、国民からの尊敬を集めている人物だっている。さらに「中国政府=中国国民」という図式も成り立たない。

英国がさらに対中強硬姿勢を強めなければならないとすれば、香港で民主化運動を続ける活動家で、BNOパスポートを所有していない人びとや新疆ウイグル自治区の人びとへの援助である、とGuardianは主張します。中国が劇的に態度を改めるとは思えない、報復措置をとろうとするだろう、英国に求められるのは慎重かつ一貫性をもった(considered, consistent)行動であり、同じような姿勢を持っている国との共同歩調をとることも必要だ、というわけで

中国との交渉にあたって、(アメリカを含めた)民主主義勢力の間で協力し合おうという姿勢は必要ではある。が、それはアメリカの要求なら何でもこれに従うことを意味するものではないし、米政権の行き過ぎ発言についても、オウムのようにこれを繰り返せばいいというものでもない。

There are, sensibly, growing efforts for democracies to cooperate in dealing with China. But this should not mean obedience to every demand from the US, or an echoing of its excesses.

と結んでいます。

2020年8月2日 up date

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