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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
ちょっと古いけれど、3月16日付のSocial Europeというヨーロッパの時事問題を扱う雑誌のサイトに “Preventing the next virus outbreak”(次なるウィルス感染を防ぐために)というエッセイが出ています。書いたのはイスラエルのテルアビブ大学で政治学を学ぶマイカル・ローテム(Michal Rotem)という博士課程の学生(のようです)。起こってしまったコロナウィルスへの感染防止というのではなくて、将来も同じようなことが起こらないようにするための提言を意図しており、メッセージは次のようになっている。コロナウィルスは自然が起こした災害ではない。それは動物および人間の福祉を軽視した農業の在り方が起こしたものなのだ。 The coronavirus is not a natural disaster but the outcome of a system of agriculture subordinating animal, and human, welfare.
筆者によると、コロナウィルスのルーツを探るためには1970年という年に遡る必要があるというのが中国における科学者の一致した意見なのだそうです。その年、中国で飢饉が起こり3600万もの人 が命を落とすということがあった。その責任の一端は食糧生産をコントロールしていた共産党政府にある、というわけで1978年になって農業への国家の介入を止めてこれを民営化する方向に変わったのだそうです。
この法改正によって野生動物の売買は産業界にとっては興味深いビジネスとなり、サイ、狼、ネズミ、ワニ、アヒル、ヘビ等々、実にいろいろな野生動物が売買の対象となった。ただ、同じマーケットにいろいろな動物が大量に共存するようになると、ある動物にまつわる病が別の動物に感染するということが起こるようになった。その中に「人間」も入っていたというわけです。2003年になって広東省のマーケットからSARSウィルスが広がった。その源はハクビシン(masked palm civet)というアジアの野生動物だった。SARSウィルスは71か国に広がり774人の死者を出した。それ以後は中国政府は野生動物を食用とする業界を支援することを中止した。
2003年にSARSウィルスの発生源となった広東省とコロナウィルスを生み出した武漢のマーケットの間には共通点がある。非常に混雑したスペースに極めて多種類にわたる動物が混在していたということがそれで、そのことがウィルスの感染を許す結果に繋がった、と筆者は言っている。
ウィルス感染は野生動物の売買が原因で起こるのか?それとも取引される動物が暮らしている環境によって生まれるのか?おそらく両方だろう(Probably both)と筆者は言います。2009年に起こった豚インフルエンザによる感染の源はメキシコのラ・グロリアという町であるとされているのですが、そこには豚を飼育する豚小屋が数多く置かれていた。かつて英国などで起こった鳥インフルエンザや狂牛病についても、似たような背景があった。他の国の人間が食さない動物を食べるからと言って、中国人を責めるのは間違っている。トラを殺すのも牛や鶏を殺すのも同じことだ。問題は動物の種類ではなく、動物が置かれた状態なのだ。The Chinese should not be judged for consuming animals others do not—there is really no difference between slaughtering tigers and cows or chickens. The main problem is the conditions, not the species.
ウィルスの問題を解決するためにワクチン開発に精を出すというのは、傷の手当てをするのにバンドエイドを貼って済ませようとするのと同じであり、根本的な解決にはならない。動物愛護(animal welfare)を人間にとっても必要なことと考える必要がある、というわけで、結論は動物愛護は即ち人間愛護でもある。動物に対して人間がとる行動の意味するところを、単に道徳上の観点からではなく、(人間の)健康という観点からも考える時が来ている。さらに言うならば、これは環境問題でもあるということだ。 Animal welfare—human welfare. It is time to think about the implications of our actions for animals, not just in terms of morality but also health. And of course (but that’s another topic) the environment.