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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
4月末の約1週間にわたってBBCが“Crossing Divides”(分断を越えて)という特別企画による放送を行いました。いま世界中どこでも「対立」とか「分裂・分断」という現象が目立ちません?英国のBREXIT、アメリカのトランプ現象、欧州における極右の台頭・・・まさに”The world seems more divided than ever”(世界がいまほど分裂しているように見えるときはない)という時代である、と。BBCのこの企画は、そのような流れの中でもお互いを結び付けようという動きがないわけではないというわけで、あえてそちらのアングルに焦点を絞って人間の努力を紹介しようとするものです。例えば冷戦時代に米ソを結び付けるためにベーリング海峡を泳いで渡った男の話、若者と年寄りが一緒に暮らすコミュニティの話題、人種の違いを乗り越える学校教育etcのような話題が紹介されています。
ここでむささびが紹介するのは、これらの番組やビデオではなくて、”Crossing Divides”という企画を行うにあたってBBCが英国の世論調査機関と協力して行った27か国にまたがる国際世論調査です。今年の1月26日から2月9日までの2週間、約2万人の成人を対象にオンラインで調査したものです。結論を言うと次の3点に絞ることができるのだそうです。
・4分の3の人間が自分たちの社会が10年前よりも分裂している(more divided than it was 10 years ago)と感じている。
・社会的な緊張感を生み出している最大の要因は政治的な意見の違い(differences in political views)で2番目は貧富の格差である。
・ただ多数の人びとが世界的には違いよりも共通点(things in common)の方が多いと思っている。
この種の調査がどの程度実際の状況を反映しているのか分からないけれど、(真実に近いものと信ずるとして)興味深いと思うのは、日本・中国・韓国における人びとの感覚です。例えば「あなたの国はどの程度分裂していると思うか?」(How do you think your country is divided these days?)という問いに対して「大いに分裂・かなり分裂している」(very/fairly divided)と答えた人の割合を見ると、韓国人が世界平均よりも上なのに対して日本人も中国人も平均よりも下にきている。トップ3はセルビア、アルゼンチン、チリでいずれも9割以上が yes と答えている。英米露中韓日の6か国の人びとはというと:
となっている。英国とアメリカの世論分裂はBREXITやトランプ現象からしても察しがつく。一方、日本人や中国人のほぼ半数が「分裂している」と答えているのに対して韓国人の場合はこれがほぼ8割にものぼっている。では日中韓の人びとは、何が原因で社会が分裂していると感じているのかというと次のようになる。
日本人も中国人も「政治的な意見対立」を挙げてはいるけれど、韓国人ほど極端ではない。これから朝鮮半島のことを考えるうえで興味深い違いです。
では対立の原因について英米露の人たちは何を想っているのか?日中韓にはなくて英米露にあるのは「移民」です。この調査の場合は「移民と本国民」との間の対立的感情という意味です。日中韓にはこの種の対立がないのは、そもそも移民自体が少ないということでしょう。で、次の質問にはどのように答えているか?
あなたの国の人びとは、異なった文化・育ち・意見を持つ人びとに対してどの程度寛容だと思うか?
How tolerant do you think people in your country are of each other when it comes to people with different backgrounds, cultures or points of view?
自分たちの国で暮らしているけれど、生まれや育ちが外国という人びとに対する接し方です。
調査対象国全体では74%のカナダ人が「大いに・ある程度寛容(very/fairly tolerant)」であると思っておりこれがトップなのですが、第2位に中国人が来ているのですね。日本人と韓国人の数字が低いのとは対照的です。繰り返しますが、この数字は「自分たちが外国人にどの程度オープンか」ということを自己評価したものであって、第三者による評価ではありません。
ところで今回のアンケート調査の中で日本人が27か国中の27番目、すなわち yes と答えた人が最も少なかった質問があります。
世界中の人びとの間には違いよりも共通点の方が多いという意見に賛成ですか、反対ですか?
Do you agree or disagree that people across the world have more things in common than things that make them different?
この質問に対して「賛成」と答えた人が最も多かった(81%)のはどこだと思います?ロシアです。日本が最下位なのですが、下から2番目はハンガリーで、3番目は韓国です。中国は13番目だからちょうど真ん中です。
「世界中どこへ行っても人間は同じだ」と考える心理はどのように説明されるのでしょうか?育ちや文化が異なる人間に対して寛容なのでしょうか、その反対なのでしょうか?