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国際問題コラム「世界の鼓動」

シリア:欧米にできることは何もない

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

mj395-syriatop4月13日、米英仏によるシリアへの軍事攻撃が行われました。英国の参加については国会の承認が必要だという意見もあったのですが、結局メイさんの判断で参加が決定されたわけです。攻撃の4日前(4月9日)のGuardianにエッセイを寄稿したコラムニストのサイモン・ジェンキンズは

アサドの勝利以外にシリアの内戦を終わらせる道はない。欧米にできることは何もない。
Only Assad’s victory will end Syria’s civil war. The west can do nothing

と言い切っています。化学兵器による攻撃は(それが事実であるとすれば)ひどいハナシではあるけれど、「欧米による軍事介入はシリア人苦しみを長引かせるだけだ」(western military intervention would only prolong Syria’s suffering)というわけです。

mj395-syriatrumpetcシリアで内戦が始まったのは、2011年のこと。最初は国内的な民主化要求運動だったのが、いつの間にかアサド政権打倒を目指す内戦状態となり、それにロシア、イラン、欧米諸国にプラスしてISISまでもが加わって何が何だか分からない状態になってしまった(むささびジャーナル328号)。ただ2011年当座は、欧米の情報筋やメディアは、アサド政権崩壊は時間の問題と言っていた。結果としてそれは間違っていた。ジェンキンズによると、そもそも欧米によるシリアへの軍事介入は、「及び腰」(half-hearted)でしっかりした姿勢に欠けていた。そのような介入ならしない方がいい・・・とジェンキンズは言っている。中東における国内問題に外部がちょっかいを出すと、生まれるのは「死と破壊」(death and destruction)だけというのが通例である、と。

首都ダマスカス近郊の東グータ地区の中のドゥーマと呼ばれるエリアには、反体制派が生き残って抵抗を続けており、政府軍が空爆した際に毒ガス兵器を使ったと非難されているわけですが、アサド政権による化学兵器使用が言われたのはこれが最初ではない。昨年にも同じ非難がなされたけれど、それ以後アメリカはシリア軍の基地があるシャリアートと呼ばれる町に59回もミサイルの雨を降らせている。にもかかわらず事態は一向に良くなっていない。ジェンキンズによると、自らの生き残りをかけて戦っている政権は、国際社会の非難など気にするものではない。同じことが同盟国(シリアにとってはロシアとイラン)にも言える。

「対シリア軍事介入:揺れる英国世論」 上のグラフは、世論調査機関のYouGovが調べた対シリアの英国世論の動向です。2013年のときは圧倒的に反対意見が多かったのですが、その後、ISISの活動が激しさを増したりする中で、アサド政権への軍事介入に賛成する意見が増えている・・・とはいえ、やはり一番多いのは軍事介入に対する反対意見です。世論とトランプの間で板挟み状態のメイ政権がどのような態度をとるのか?

「対シリア軍事介入:揺れる英国世論」
上のグラフは、世論調査機関のYouGovが調べた対シリアの英国世論の動向です。2013年のときは圧倒的に反対意見が多かったのですが、その後、ISISの活動が激しさを増したりする中で、アサド政権への軍事介入に賛成する意見が増えている・・・とはいえ、やはり一番多いのは軍事介入に対する反対意見です。世論とトランプの間で板挟み状態のメイ政権がどのような態度をとるのか?

上のグラフは、世論調査機関のYouGovが調べた対シリアの英国世論の動向です。2013年のときは圧倒的に反対意見が多かったのですが、その後、ISISの活動が激しさを増したりする中で、アサド政権への軍事介入に賛成する意見が増えている・・・とはいえ、やはり一番多いのは軍事介入に対する反対意見です。世論とトランプの間で板挟み状態のメイ政権がどのような態度をとるのか?

化学兵器については、1997年の化学兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention: CWC) というのがあるけれど、兵器そのものは比較的安価に作れることもあって、いわゆる「大国」でなくてもこれを大量に抱えている国がいくつもある。ジェンキンズに言わせると、化学兵器の使用によって被害を受けた子供たちが苦しんでいる場面はメディアで取り上げられて非難の対象になるけれど、「あの子供たちには生き残る可能性は残されている」(at least they might survive)。アメリカによって雨あられと撃ち込まれるミサイルはさらに多くの民間人を殺害しているけれど、ミサイルによって打ち砕かれた人間の身体は何も残らない、その方が残酷さが少ないとでも言うのか?

戦争には必ず民間人の犠牲が伴う。シリアについていうと、首都ダマスカスの近郊の住宅地を狙ったような攻撃の残酷さには吐き気を催すほどであるけれど、それをやっているのはアサドの政府軍だけではない。否定はしているけれど、欧米の軍隊も同じことをやっている。昨夏、モスルの陥落に伴って命を落とした民間人は8000人を超えるとされており、そのほとんどがイラク、アメリカ、英国の軍隊によって撃ち込まれたミサイルによるものである、と。アメリカのペンタゴン自体が数千人もの人間を殺したことを認めているし、英軍の司令官は、民間人の死は、都市部における戦闘では「止むを得ない」(the price you pay)とも言っている。おそらくアサドも同じことを言っているだろう、と。

「英国世論:シリアとの付き合い方(2013年)」 今から5年前の2013年にもシリア政府軍による化学兵器の使用が伝えられ、キャメロン政府(当時)が英国もアメリカに同調してシリア爆撃に参加するという動議を国会に提出して否決されたことがある。その前に行われた世論調査でも英国人のシリア爆撃に対する気持ちがうかがえます。他国の内戦に介入すること自体に反対しているけれどシリア人の苦しみに無関心というわけではなく、人道支援は行うべきだという意見が圧倒的に多い。

「英国世論:シリアとの付き合い方(2013年)」
今から5年前の2013年にもシリア政府軍による化学兵器の使用が伝えられ、キャメロン政府(当時)が英国もアメリカに同調してシリア爆撃に参加するという動議を国会に提出して否決されたことがある。その前に行われた世論調査でも英国人のシリア爆撃に対する気持ちがうかがえます。他国の内戦に介入すること自体に反対しているけれどシリア人の苦しみに無関心というわけではなく、人道支援は行うべきだという意見が圧倒的に多い。

今から5年前の2013年にもシリア政府軍による化学兵器の使用が伝えられ、キャメロン政府(当時)が英国もアメリカに同調してシリア爆撃に参加するという動議を国会に提出して否決されたことがある。その前に行われた世論調査でも英国人のシリア爆撃に対する気持ちがうかがえます。他国の内戦に介入すること自体に反対しているけれどシリア人の苦しみに無関心というわけではなく、人道支援は行うべきだという意見が圧倒的に多い。

ジェンキンズによると、戦争に関連する法令や条約は「偽善」によってくるまれている。なぜそうなのか?主としてそれらが戦勝国によって作られるからだとジェンキンズは主張します。アメリカは未だに遅延クラスター爆弾を禁止する条約に署名していない。この兵器はイエメン攻撃を繰り返すサウジ・アラビアによって未だに使われているのだそうです。ジェンキンズに言わせると、アメリカの姿勢は「非道徳」というよりも「汚い」(obscene)と表現した方が適切である、というわけで、

シリアの戦争はアサドの勝利によってのみ終結するだろう。居心地のいいソファに坐りながらそのことを非難しても事態は変わらない。どのようにしてアサドを非難しようか、と検討するのは構わない。が、現時点における欧米による軍事介入は全く何の意味もない。我々は世界を支配しようとする習慣をいい加減に止めなければならない。
The Syrian war will only end when Assad wins. No amount of armchair ranting will alter that. Then we can all discuss how to condemn him. For the moment, western military intervention is utterly pointless. We must kick the habit of trying to rule the world.

と言っている。

2018年4月15日 up date

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