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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
2月14日に米・フロリダ州の高校で17人が死亡するという銃の乱射事件がありましたよね。世論調査機関のPew Researchが昨年(2017年6月)に“America’s Complex Relationship With Guns”(アメリカ人と銃の複雑な関係)という調査結果を発表しています。そのうちのいくつかを紹介すると次のようになる。
ほぼ半数が、「子供のころから自宅に銃があった」と言っているのは、今更ながらショックですよね。支持政党別の数字を見ると、共和党支持者の8割近くが「現状のまま」もしくは「もっと規制緩和を」と言っている。ただこれはどの程度マジメな意見なのか・・・むささびは疑ってしまう。民主党に対する反発がNRA(米ライフル協会)支持に走らせていることはないのでしょうか?
銃規制反対を「民主党嫌い」という受け身ではなく、「国民が銃を持つのはいいことだ」と積極的な姿勢で語る意見はないものかと探していたら次の文章にお目にかかりました。
A good guy with a gun stops a bad guy with a gun.
銃を持った善人が銃を持った悪人を止める。
銃の所有を「いいこと」とマジメに考えているアメリカ人のマジメな発想なのであろうと推察するのですが、Gun Violence Archive (GVA)というNPOのサイトによると、今年(2018年)の1月1日から2月24日までの約2か月間で、アメリカ全土で7958件もの射撃事件があり、2173人が死んでいる。2017年の1年間では約6万1000件(死者:約1万6000人)です。
このような数字を見せられると、沈黙してしまうけれど、反対にそのような状況に追い込まれているアメリカ人の苦悩に対する同情心も出てくる。「教師に銃を持たせてはどうか」というトランプの信じられないような発言も、本人は大マジメなのですよね。
人口100人あたりの銃の数
で、最後に紹介したいのは、560KPQというワシントン州にあるラジオ局のサイトに出ていた、ある人物からの投稿です。この男性は、今から21年前の1996年、ワシントン州の中学校で起こった銃乱射事件の際に身を賭して犯人を取り押さえることに成功した教師の言葉です。ここをクリックすると全文を読むことができますが、一か所だけ抜き出して紹介します。
私の見るところによると、このような暴力的な行為に走る人間の多くが実は苦しんでおり、いろいろな点で今の世の中の病んでいる部分の犠牲者なのである。だからと言って彼らの行動を許すわけにはいかないけれど、彼らもまた私たちの社会に内在する暴力を受け入れる姿勢の犠牲者であると言えるのだ。
It is my observation that many of those who commit these violent acts are suffering and in many ways are also victims of traumatic circumstances in their lives. That doesn’t excuse their actions but they also become victims to the acceptance of violence in our society.
と書いたうえで、今のアメリカ社会における家庭崩壊、信仰心や弱者への思いやりの欠如などの問題を解決しない限り銃暴力も止まないと訴えている。そして教師や政治家に任せてはならないとして「ホームレスや病人・老人に親切にしよう。若者たちに手を差し伸べよう」などと訴えている。
今回の銃乱射事件のあと、事件の現場となった高校で銃規制の強化を要求する抗議集会が開かれ、規制に消極的な政治家に対して「恥を知れ!」(Shame on you!)と叫んだ様子が全米にテレビ中継されました。ここをクリックするとその様子を見ることができるのですが、これはかなりのインパクトを与えたと見えて、それまで全米ライフル協会(NRA)を支援してきた企業がこれを取り下げることを明らかにした。例えばデルタ航空の場合、それまでNRAの会員に提供してきた航空券のディスカウントを止めにした。ユナイテッド航空やレンタカーのヘルツやエイビスも似たような声明を発表している。それに対するNRAの声明がすごい。「NRAの会員(約500万人)はそのような脅しにひるむようなことはしない」としたうえで
NRAの使命は個人の自由のために立ち上がりこれを擁護することにある。それこそがアメリカを世界で最も偉大な国にしてきたのだ。
our mission is to stand and defend the individual freedoms that have always made America the greatest nation in the world.
と言っています。