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国際問題コラム「世界の鼓動」

北朝鮮核危機をめぐるグレート・チキンゲーム(中)ーー 半島の非核化

ガブリエル独外相「北朝鮮の翻意は中国の圧力が貢献」

北朝鮮はなぜグアムへのミサイル発射計画を見合わせたのだろうか。トランプ大統領は16日、金正恩委員長がミサイル発射計画の留保を示唆したことに対し「金委員長は非情に賢明で、理にかなった判断を下した」「別の選択をしていれば壊滅的な結果をもたらしていたし、到底、容認できなかた」とツイッターを通じてメッセージを発信した。
注目すべきは、同日、ドイツのガブリエル外相が「北朝鮮のミサイル発射計画の留保には、何よりも中国による圧力が貢献した」と語っていることだ。外相は中国が10日、共産党の機関紙、環球時報で「朝米本土をミサイル攻撃で先制し、米国が報復した場合、中国は中立を保つことを明確にすべきだ告げたことを高く評価しているのだ。
北朝鮮が米国を先制攻撃した場合は、米国から反撃されても中国は中朝軍事同盟を破棄し、北朝鮮を守らないと突き放している。同時に「米国と韓国が攻撃を仕掛け、北朝鮮の体制打倒と朝鮮半島の政治体制を変えようとしたら、中国は阻止する」と、米韓に釘を刺しているが、これほど明確に米国に対する先制攻撃を禁じられれば、金委員長も振り上げた拳を降ろさざるを得ない。
中国は国連の北朝鮮制裁案にロシアと共に賛成に回った。北朝鮮の核・ミサイルは米国だけではなく、いつでも中国、ロシアを狙えるので危険極まりない。中国国境近くでの核実験は中国東北部一帯に深刻な放射能汚染問題を引き起こしている。北朝鮮は米韓国軍の防波堤、緩衝地帯になってくれる有難い存在ではあるが、金委員長の暴走にはそろそろ我慢の限界が訪れているのだろう。
トランプ大統領は4月のフロリダでの米中首脳会談で、対中貿易赤字問題に目をつむる代わりに中国に北朝鮮を説得して核放棄させるグランドバーゲンを仕掛け、習近平主席は「100日間の猶予」を条件に出した。ところが、7月中旬になっても、いっこうに北朝鮮の挑発行為は収まらない。しびれを切らしたトランプ大統領は、それまでの習主席に対する礼賛のメッセージが「中国には失望した」に変わり、台湾への武器供与や、南シナ海への航行の自由作戦の再開を発表、知的財産侵害の疑いで対中貿易調査を開始するなど、米中貿易摩擦問題にも厳しい姿勢に転じていた。
ガブリエル外相の指摘に耳を傾け、トランプ大統領は習首席に「有難う」のメッセージを出してもおかしくないが、バージニア州シャーロッツビルのデモ騒ぎを「双方が悪い」と発言し「人種差別を容認しかねない」と窮地に追い込まれている大統領には、そのゆとりもないのだろう。

トランプ大統領、金委員長にニクソン元大統領の「狂人の論理」を援用

同時に、米国の硬軟織り交ぜた対応も金正恩委員長の翻意に大きな効果を上げた。トランプ大統領はニクソン元大統領の「狂人の論理」を援用、金委員長に「核攻撃も辞さない何を仕出かすか分からない相手」と思わせる激しい口調で北朝鮮を非難し続けた。一方、大統領の側近は軍人出身者が多いにもかかわらず、冷静に対話を呼びかけ、金委員長に逃げ場を与えてきた。

トランプ大統領はニクソン元大統領のファンで、40年近くも前のニクソン元大統領からの手紙を額に入れて執務室に飾っている。ニクソン元大統領は1973年パリでのべトナム和平交渉の際、ベトナム側に「ニクソンは頑迷な反共主義者で、怒らすと何を仕出かすかわからない危険な人物だ。核のボタンも押しかねない」と耳打ちするよう側近に命じ、交渉を成功させたという逸話が残っている。トランプ大統領は、この「狂人の論理」を今回、金委員長にぶっつけているのかもしれない。
「炎と激怒」発言の前に、グラム上院議員が8月1日、NBCの番組でトランプ大統領が「北朝鮮がICBMの開発を続ければ戦争は避けられない。戦争は現地で起きる。大勢が死ぬとしても向こうで死ぬが、こちらで死ぬわけではない」と語ったと紹介した。北朝鮮との戦争になっても、死者が出るのは北朝鮮か日本であって、米国ではないという「アメリカ・ファースト」の発想で、よく考えれば極めて恐ろしい思想の持ち主だ。
ヘイリー米国連大使は金委員長について「われわれが相手にしているのは理性的な人間ではない」と公言しているが、金委員長自身がトランプ大統領について「理性的な人間ではない」と判断しているかもしれない。しかし、トランプ大統領の側近は軍人出身者が多くを占める割には極めて抑制のきいた言動の持ち主が多い。

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2017年8月26日 up date

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