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第2は砲艦外交の展開だ。4月8日、原子力空母カール・ビンソン打撃軍を寄港予定地オーストラリアから変更、朝鮮半島近海に展開することを決めた。乗員5000人以上、艦載機FA18など約90機を搭載、まさに海に浮かぶ要塞だ。ミサイル誘導(イージスシステム)駆逐艦2隻と巡洋艦1隻が護衛、日本、韓国の艦船や戦闘機との共同演習も実施している。24日には、釜山港に巡航ミサイル154発を搭載するオハイオ級の大型原子力潜水艦ミシガンを入港させた。5月には横須賀基地の原子力空母ロナルドレーガンが定期点検を終える。カール・ビンソンがサンディエゴ・ノースアイランド基地に帰投しても、交代可能になる。
第3は米国家安全保障委員会(NSC)が4月7日、トランプ大統領に北朝鮮の核兵器に対抗するため、在韓米軍に核兵器再配備を提案、同時にTHAAD(高高度迎撃ミサイル)の配備を大幅に前倒ししたことだ。在韓米軍には1991年9月、当時のブッシュ(父)大統領が撤収を決意するまで、1000発の戦術核が配備されていたと言われる。核兵器を再配備するのは、ソウル南方の烏山空軍基地が有力候補とみられている。THAAD配備に反対してきた中国の在韓米軍への核配備再開についての反応はまだみられない。
米国は5月9日の韓国大統領選で北朝鮮に融和的は大統領が誕生する場合に備え、韓国南東部の慶尚北道星州郡へのTHAADの配備を繰り上げ、4月中に完了した。発射台6基を備え、北朝鮮の中距離弾道ミサイル、ノドンを高度40~150㌔で迎撃するミサイル48発で構成する。
韓国軍によればTHAADは主として在韓米軍の防衛が目的だという。例によって、トランプ大統領は、費用は全額韓国が負担すべきだと主張し始めた。韓国では大統領選候補者間の熱い議論の的になっている。マクマスター大統領補佐官(安全保障担当)は4月30日、韓国の金寛鎮国家安全室長に電話でTHAAD配備に関して、土地および基盤施設については韓国が負担、展開・運用費用は米国が負担するという当初の取り決め通りに実行すると伝えた。しかし、マクマスター補佐官はその後、FOXニュースでTHAADの費用負担問題で韓国と再交渉することを示唆した。大横領から修正の指示が出たのかもしれない。THAAD配備は朴槿恵前大統領が中国の猛反対を押し切り、ようやく配備に漕ぎつけたいわくつきの案件だ。このあたり、トランプ大統領の、首尾一貫性の欠如、危うさが出ている。
北朝鮮包囲網には今回、中国が初めて米国と協調参加している。
中国は2月18日、北朝鮮からの石炭輸入を19日から年内いっぱい停止すると発表した。石炭は北朝鮮の命綱、輸出の45%を占め、ほとんどが中国向けだ。中国が北朝鮮から輸入した石炭は2016年、前年比13%増の11億8900万㌦。数量ベースでは15%増の2248万㌧(中国貿易統計)。国連の制裁決議は北朝鮮の石炭輸出総量を年間4億㌦、あるいは750万㌧に抑えるという内容だった。北朝鮮から石炭を輸入しているのは中国だけだから、事実上、中国は2月まで国連制裁決議を無視していたわけだ。
中国中央テレビなどが伝えるところによると、北朝鮮は4月19日、ガソリンの販売を外交官ナンバー車だけに制限する措置をとった。ほとんどのガソリンスタンドは営業停止に追い込まれている。平壌市内のガソリン価格は7割以上値上がりし、たまに開いているスタンドには1㌔の長い行列ができているという。
30日現在、公式発表はないが、すでに、中国は石油輸出を絞り始めているのかもしれない。あるいは、北朝鮮当局が中国からの石油輸入が減ることを見越して、手許の石油在庫を極力、節約し始めていることも考えられる。
北朝鮮は石油輸入の95%を中国に頼っているとされ、中国貿易統計によると、中国は2013年まで年間50㌧の石油を北朝鮮に輸出していた。14年以降、統計上、北朝鮮向け石油輸出はゼロになっているが、水面下では50㌧程度の輸出を続けているとみられる。実際には輸出は150万㌧水準に増えていたとみる向きもある。
中国が協力しなかったため、2006年10月の第1回核実験以来6回にわたる国連安保理による対北朝鮮の経済制裁決議はほとんど効果を発揮しなかった。この間、北朝鮮は着々と核爆弾および運搬手段であるミサイル開発を進めてきたのが何よりの証拠だ。
(注) ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、人口2500万人の北朝鮮の兵力は138万人と米国に並び世界第3位、2015年の国防費は75億㌦(約8600億円)とギリシャと同額だが、GDP比は23.3%で世界第1位。
中国が石油輸出を止めれば、北朝鮮軍の機動力はたちまち損なわれ、バスが止まるなど国民の日常生活にも支障が生じる。制裁を強化にいちばん効き目がある石油輸出を止めるよう米国、日本などは中国に働きかけを強めてきた。
人民日報の姉妹紙「環球時報」は「核実験を強行した場合は石油供給を止めるべきだ」と主張する社説を連日のように掲載し始めている。いずれ、中国は北朝鮮からの石炭輸入の停止に続き、北朝鮮向けの石油輸出の大幅カットを発表するとみられる。