NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

「メイビー首相」と英国のこれから

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

mj372-maytopマンチェスターのテロ事件ですっかり影が薄くなってしまったけれど、6月8日は英国の選挙の日です。メイ党首率いる保守党の圧倒的優勢が伝えられていたのですが、最近の世論調査を見ると必ずしもそうではないという雰囲気になっている。マンチェスターにおけるテロ事件以前のことですが、The Economistのブログがメイさんについて”Not Maggie May, but muddled May”という見出しのエッセイを載せている。訳すと「マギー・メイではなく、どっちつかずメイ」となる。「マギー」はティリーザ・メイの先輩であるマーガレット・サッチャーのことです。メイさんには、これと言ったカリスマ性(fascinating personality)がない。あえて言えば「冷静にして有能」(calm and competent)が特徴であり、いまの英国人が求めているのはそれなのかもしれないのですが、それが裏目に出て「冷静・有能」が「どっちつかず」と受け取られてしまう可能性もないではない。

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5月25日にYouGovという世論調査機関が発表した政党支持率。マンチェスターのテロ事件後に行われた初の調査結果です。保守党と労働党の差が5ポイントとなっているのですが、選挙が行なわれることがメイ首相によって発表された4月半ばのころの支持率は保守党が46%、労働党は25%で、20ポイントを超える差がついていたことを考えると、メイさんにしてみれば信じられないような状況です。The Economistの記事によると、5ポイント差ということは議席数に直すとわずか2議席なのだそうです。

実は今から10年前の2007年、労働党の党首がトニー・ブレアからゴードン・ブラウンに代わったのですが、良くも悪くもスター性に富んでいたブレアに比べるとブラウン(ブレア内閣の財務相)は、地味ながらも有能というのが定評だった。そして2010年の選挙を迎えたときに労働党がブラウン党首を表現するのに使ったキャッチコピーは「派手ではない、ただのゴードン」(Not flash, just Gordon)というものだった。そして選挙ではキャメロンの保守党に敗れてしまった。

好き嫌いはともかく、サッチャーさんの場合は強烈な個性(persona)と哲学があり、「サッチャリズム」という言葉が定着しているけれど、メイの場合に将来「メイズム」(Mayism)として記憶されることがあるだろうか?The Economistに言わせるならそれはない。”persona” がなさすぎるというわけです。そのことがはっきりしているのはBREXITに対する姿勢です。キャメロン政権の閣僚であった頃はEU離脱には反対していたのに、離脱が勝ってしまうと直ちに「熱心なハードBREXIT推進者」(enthusiastic supporter of hard Brexit)変わってしまい、EUの単一市場とも関税同盟ともきっぱり縁を切ると言い切ってしまった。
mj372-may1この選挙に圧勝して、離脱の条件をめぐってEUと交渉するときに「自分には英国民がついているのですよ」と強気で臨むことができる・・・というのがメイさんの目論見だったのですが、「僅差の勝利」ではそうもいかない。The Economistはメイさんに “Theresa Maybe” というニックネームを付けたりしているのですが、確かにサッチャーさんのような頑固さはない。ただ首相ともなると「~かもね」(maybe)とばかり言っているわけにもいかない。

実はBREXIT推進派にも2種類ある。一つはEUの官僚的規制から自由になって独立したグローバルな自由貿易国として世界と付き合おうという考え方で、保守党右派がそれにあたる。もう一方は英国独立党(UKIP)のような外国人排斥傾向のあるグループ。メイさんの場合、両方にいい顔をする傾向にある。例えば昨年のダボス会議で行った演説と保守党大会における演説を比較してみると:

・ダボス会議:英国は開かれた経済、自由貿易、自由な投資、思想、情報の交流などを促進するグローバル・チャンピオンになるのです。
・保守党大会:最近の指導者たちは庶民たちより国際派のエリートたちに近いと考えているようだ。しかし「世界市民」などというものを信じるということは、どこの国民でもないということですよ。彼らには「国籍」というものの意味が分かっていないのですよ。

となる。一方では国際的であることを強調し、もう一方では「世界市民なんていない」と言い切っている。また今回の選挙用に用意された保守党のマニフェストには、従来の保守党とも思えないような文言が並んでいる。

・規則のない自由市場など信じていない
We do not believe in untrammelled free markets.
・利己主義的な個人主義を排する
We reject the cult of selfish individualism.
・EU加盟国であるが故に英国人にも認められた労働者の権利は離脱後も維持される
Workers’ rights conferred on British citizens from our membership of the EU will remain.

最後の文言などを読むと、「EUにいた方が良かったのでは?」と言いたくもなる。The Economistによると、現在の保守党が生まれたのは1834年、それ以来、原理原則よりも政権維持に力を入れてきた。首相としてのメイさんには、保守党の伝統ともいえる「柔軟性」があると言えるけれど、別の言い方をすると「首尾一貫性のなさ」に危険性が潜んでいるということになる。

予期せぬ出来事が起こったとき、はっきりした方向感覚を持っていない政治的指導者の弱さが露呈されるものだ。
Unexpected events expose the weaknesses of political leaders who have no clear sense of direction.

ということであります。

2017年5月30日 up date

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